生物工学:ヒトの健康状態の改善に使用できるかもしれない人工のウイルス様粒子
Nature Communications
2023年5月31日
ヒトの細胞に侵入して特定の任務(例えば、遺伝子編集)を遂行する人工のウイルス様ベクターを構築する方法について報告する論文が、今週、Nature Communicationsに掲載される。このナノ材料は、大容量で、カスタマイズができるため、将来的に遺伝子治療や個別化医療に用いる有望な材料候補になるかもしれない。
ウイルスは、効率的な生物機械であり、子孫を迅速に複製し、組み立てる能力を持っている。これまでの研究で、天然のヒトウイルス(例えば、レンチウイルス)を遺伝子工学的に改変して、動物に治療用のDNAやRNAを送達できるようになったが、送達能力に制限があり、いくつかの安全性の問題があった。治療用分子を使ってプログラムされた人工ウイルスベクターを構築してウイルス機構をヒトに適用し、有益な修復作用を発揮させられれば、健康状態の回復に役立つかもしれない。
今回、Venigalla Raoらは、バクテリオファージT4(細菌に感染するウイルスの一種)を用いて人工ウイルスベクター(AVV)を構築する方法を考案した。このAVVは、内部容量と外表面の面積が大きく、治療用生体分子を使ってプログラムして、この生体分子を体内に送達する。Raoらは、概念実証実験で、タンパク質と核酸を積荷とするAVVを作製し、ゲノム工学に役立つことを実証した。このAVVのプラットフォームを使って、実験室内で完全長のジストロフィン遺伝子をヒトの細胞内に送達し、ヒトゲノムを再編成するための種々の分子操作を行うことができた。また、このAVVは、低コストかつ高収率で作製でき、数カ月間安定を保つことが判明した。
Raoらは、このAVVの安全性を評価するためには、さらなる研究が必要だが、この方法は将来、臨床で多くのヒトの疾患や希少疾患の治療に使用されることが見込まれると結論付けている。
doi:10.1038/s41467-023-38364-1
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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