生理学:肥満は栄養素に対する脳の応答を異常にする
Nature Metabolism
2023年6月13日
肥満患者は特定の栄養素に対する脳の応答が低下しており、体重を減らした後も回復しないことが、60人の被験者で行われた研究で明らかになった。このことを報告する論文が、Nature Metabolismに掲載される。この知見が示唆するように、肥満患者では長期的に持続する脳の適応が起こっており、それが摂食行動に影響を及ぼしている可能性がある。
摂食行動は複雑な代謝シグナルが統合された結果であり、これらのシグナルは消化管をはじめとする臓器や血流から脳へと届き、また戻って、空腹感や満腹感を引き起こし、食物を探す動機となる。これらの過程は、動物モデルでは肥満といった代謝疾患の場合も含めて解明が進み始めているが、ヒトで何が起こっているかは、臨床の場でこういった機序を解明する実験条件の設定が難しいため、ほとんど分かっていない。
Mireille Serlieらは、健康体重(BMIが25キログラム/平方メートル以下と定義)の被験者30人と肥満(BMIが30キログラム/平方メートル以上)の被験者30人の胃に、特定の栄養素(脂質または炭水化物)を直接注入し、同時に、機能的MRIとSPECTによって被験者の脳の活動を測定するという対照臨床試験を計画した。健康体重の被験者は、栄養素を注入後、特異的な脳活動パターンを示し、ドーパミンが放出された(ポジディブな感覚に結び付く)が、肥満の被験者ではこのような応答は鈍かった。また、肥満の被験者では、体重を10%減らしても(12週間の食事制限による)こういった応答が回復するには不十分だったことから、肥満すると脳の適応が起こって長期的に持続し、減量後もそのまま残ると示唆される。
これに関連したNews and Viewsでは、Mary ElizabethとAlexandra DiFeliceantonioが、「行動によって減量してもその後再び体重が増加するリバウンドが広く見られることを踏まえると、この研究は、腸と脳のシグナル情報伝達軸が減量後の体重維持とリバウンドにどのように影響するかを今後研究していくのに、大いに役立つ基盤となるだろう」と述べている。
doi:10.1038/s42255-023-00816-9
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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