気候変動:大規模な海藻養殖による十分な炭素捕捉に伴う課題
Communications Earth & Environment
2023年6月16日
世界中で海藻の養殖を行って、十分な量の炭素を捕捉する活動に役立てるという構想は、大気中から年間2.5~13ギガトンの炭素を除去して気候変動対策の目標を達成するためには広大な海域が必要なことが明らかになり、その実現可能性に疑問符が付くことになった。このことを報告する論文が、Communications Earth & Environmentに掲載される。今回のモデル化研究では、大気中から年間1ギガトンの炭素を除去するために十分な規模の海藻養殖には、排他的経済水域(EEZ)内の最も生産力の大きい海域のうちの約100万平方キロメートルが必要なことが示された。
海藻は、光合成によって二酸化炭素を有機バイオマスに変換することによって、大気中から二酸化炭素を除去することができる。その後、このバイオマスは、深海に沈み、表層水から隔離される。しかし、海藻を使って炭素を捕捉するという構想の有効性に関する全球的推定の大部分は、特定の数カ所の海域での観測結果から全球スケールの推定を行う手法に基づいている。
今回、Isabella Arzeno-Solteroらは、Global Macroalgae Cultivation Modeling Systemによる予測結果を分析して、世界の海洋における海藻の生産力とバイオマス収穫可能量を算定した。今回の研究では、それぞれの海洋での栄養素の利用可能性と海洋条件の設定を変えながら算定が行われた。その結果、海藻に捕捉された炭素を毎年1ギガトン収穫するには、赤道太平洋の最も生産力の大きいEEZの100万平方キロメートル以上で海藻養殖を行う必要があるという予測が得られた。一方、生産力の大きい赤道海域以外では、海藻の生産力と増殖に地域的ばらつきがあるため、同じように海藻に捕捉された炭素を収穫するためには養殖場の面積を3倍にする必要があった。さらに、Arzeno-Solteroらは、海藻の生産力を維持するために栄養素を補給する必要があり、そのためには、海藻を深海域と浅海域の間で物理的に移動させる方法(depth cycling)や、深海域の栄養素を湧昇させる方法を利用できる可能性があるという考えを示している。
Arzeno-Solteroらは、海藻養殖の炭素除去能力に関する有意義な評価を行うには、海藻の増殖力の地域差を理解しなければならないだけでなく、海藻養殖の精密化に関する今後の研究が必要になるという見解を示している。
doi:10.1038/s43247-023-00833-2
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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