がん:がんの転帰に性差が生じる機構を解明する
Nature
2023年6月22日
がんの転帰には性差が認められ、男性の方が女性より転帰が悪くなる傾向が見られる。このほど行われた動物モデルを用いた研究とヒトのデータの一部を用いた研究で、このような性差へのY染色体の関与に関する知見が得られた。このことを報告する2報の論文が、今週、Natureに掲載される。1つ目の論文では、大腸がんのマウスモデルを使った研究で、Y染色体上の遺伝子が発現上昇していることが判明し、これが、雄で腫瘍の浸潤を促進し、免疫回避を助けたことが明らかにされている。2つ目の論文では、Y染色体を失った膀胱がん細胞が、免疫抑制性の高い腫瘍微小環境を生み出し、転帰の悪化の一因になったことが示されている。これらの知見は、性別に関連したがんの発症リスクを低減する方法を開発する取り組みの指針となる可能性がある。
性別は、がん罹患率、がんの臨床転帰、腫瘍の生物学的機構に影響を及ぼすことが知られており、ほとんどのがんの転帰は女性よりも男性の方が悪い。こうした差異の根底にある性別特異的な機構は、十分に解明されていないが、一部の研究では、Y染色体の機能が関与している可能性が提示された。
Ronald DePinhoらは、大腸がんのマウスモデルを用いて、大腸がんにおける性差を調べた。大腸がんは、がん関連死の原因の第2位であり、男性の方が発生頻度、悪性度、転移頻度が高い。このマウスモデルは、既知のがん遺伝子の1つであるKRASが重要な役割を果たす、特定の形態の大腸がんだ。今回の研究では、雄の方が雌よりも転移頻度が高く、生存率が低いことが観察された。これは、ヒトの大腸がんの転帰に酷似している。また、解析の結果、ヒストンデメチラーゼファミリーに属する酵素をコードする遺伝子の発現が上昇していることが分かった。この酵素は、腫瘍の浸潤と免疫回避に重要な役割を果たしている。この遺伝子は、Y染色体上の遺伝子であるため、KRAS変異型大腸がんのプログレッションの性差の基盤となっている可能性がある。
一方、別の独立した研究で、Dan Theodorescuらは、Y染色体の喪失ががんの転帰にどのような影響を及ぼすかを調べた。Y染色体の喪失は、複数の種類のがんで観察されている特徴だが、その臨床的意義と生物学的意義は分かっていない。Theodorescuらは、まず、男性の膀胱がん患者300人の臨床データを調べ、Y染色体の喪失と予後不良が関連することを明らかにした。また、膀胱がん細胞株を調べて、Y染色体を喪失した腫瘍の方が、Y染色体を有する腫瘍よりも悪性度が高く、T細胞性免疫応答が低下したことを見いだした。Theodorescuらは、マウスとヒトの両方において、特定の種類の免疫療法(抗PD-1チェックポイント阻害剤)に対する応答が、Y染色体を喪失した腫瘍の方が高かったことを指摘し、この免疫療法が、Y染色体を喪失した膀胱がんの治療法となる可能性を示唆している。
doi:10.1038/s41586-023-06254-7
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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