気候:完新世の海洋循環に見通しを与える深海のサンゴ
Nature Geoscience
2023年6月27日
極域の海洋循環のパターンは、完新世の間に大気中のCO2変動と切り離され、完新世を通して安定していた可能性があることを明らかにした論文が、Nature Geoscienceに掲載される。この知見は、南アメリカと南極の間のドレーク海峡と、アイスランド南部のレイキャネース海嶺で得られた深海のサンゴの放射性炭素年代決定に基づいている。
完新世は約1万1500年前の、北半球における主要な氷床が後退した後に始まった。完新世初期には、大気中のCO2濃度は約260 ppmv(体積百万分率)であり、約6000~1000年前の完新世中期から後期に20 ppmv増加した。この産業革命前の上昇は、南洋の逆転現象の増加、すなわち海洋循環の変化が海洋の炭素を大気中に放出したことがもたらしたと示唆されてきた。しかし、このような過程はよく分かっていない。
今回、Tianyu Chenらは、海洋循環の変化がこのCO2増加をもたらしたかを調べるために、ドレーク海峡とレイキャネース海嶺で得られた深海のサンゴ試料の放射性炭素量を測定した。これらのサンゴは、最大1900メートルの深海に生息し、放射性炭素を、周囲の海水から年代がよく決定されている成長帯へと取り込むため、海洋循環の変動を時間とともに辿ることができる。Chenらは、今回調べたどちらの場所でも水塊の見かけの年代には変化がないことを見いだし、これにより海洋循環は安定していたと示唆された。これは、主として北大西洋で起きている表層水の深海への入力と、南極周辺における炭素に富んだ水の湧昇は変化しておらず、完新世中期から後期のCO2上昇には寄与しなかったことを示している。Chenらは、そうではなく、海洋と陸上における栄養素と炭素の再分配がこのCO2上昇に影響を及ぼした可能性があると提案している。
doi:10.1038/s41561-023-01214-2
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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