生態学:絶滅が危惧される海洋性の海鳥はプラスチックへの曝露リスクが高い
Nature Communications
2023年7月5日
海洋性海鳥のミズナギドリ類に関して、海洋プラスチックへの曝露リスクの高い区域が世界各地にあることが突き止められた。このことを報告する論文が、Nature Communicationsに掲載される。曝露リスクの高い海域は、地中海と黒海の他、米国、日本、英国の沿岸の公海と排他的経済水域(EEZ)に存在している。この知見は、世界的なプラスチック汚染の脅威に取り組むための国際的な連携と協力を強化する必要性を明確に示している。
多くの海鳥種は、採餌中にプラスチックを飲み込んだり、プラスチックに絡まったりすることが多いため、プラスチック汚染への感受性が特に高い。ミズナギドリ類などの海洋性海鳥は、採餌や渡りをする際に非常に長い距離を移動し、消化管の構造上、体内にプラスチックを長期間保持するため、プラスチックへの曝露リスクが他種よりも高い。また、ミズナギドリ類の多くは、絶滅が危惧されているため、プラスチックのハザードに対して脆弱である可能性が高い。海洋プラスチック汚染が拡大傾向にあり、汚染海域が世界中に点在しているため、海鳥がプラスチックに遭遇し、プラスチックによるリスクに直面する海域を突き止めることは、プラスチック汚染を削減する活動や海鳥種の保護活動に有益な情報をもたらす上で極めて重要だ。
今回、Bethany Clarkらは、ミズナギドリ類の移動範囲とプラスチック汚染海域の重なり合いを調べるため、ミズナギドリ、フルマカモメ、クジラドリなどの海鳥種合計77種のプラスチックへの曝露リスクを全球的規模で定量化した。具体的には、海洋プラスチック密度(モデルによる推定)と7000羽以上の個体追跡データの空間的重なり合いと時間的重なり合いが検討された。Clarkらは、プラスチックへの曝露リスクを個体群、季節(繁殖期/非繁殖期)、海洋管轄区域ごとに比較した。海洋管轄区域には、EEZでない公海(沿岸国の管轄権が及ばない)も含まれている。その結果、絶滅危惧種(ヨーロッパミズナギドリ〔Puffinus mauretanicus〕、ハワイセグロミズナギドリ〔Puffinus newelli〕、ハワイシロハラミズナギドリ〔Pterodroma sandwichensis〕など)の方が、曝露リスクが高いことが分かった。このことは、他の脅威(侵入種、漁業、気候変動など)によって絶滅のリスクが既に高くなっている種について特に懸念を生んでいる。また、Clarkらは、曝露リスクが主に生じているのは、海鳥の繁殖地が位置する国の沿岸のEEZの外側の公海上であるため、EEZ内のプラスチック汚染を削減するだけでは、大部分の海鳥種にとって十分な保護策にならないと指摘している。
Clarkらは、海洋プラスチックが多種多様な生物種に及ぼす影響に取り組むためには、国際協調が非常に重要だと主張している。
doi:10.1038/s41467-023-38900-z
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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