気候変動:作物の不作が同時発生するリスクが過小評価されている
Nature Communications
2023年7月5日
世界の主要な食料生産地域(北米や東ヨーロッパなど)で収量減少が同時発生する可能性が、気候変動の下で増加するかもしれないことが、モデル化研究によって明らかになった。このことを報告する論文が、Nature Communicationsに掲載される。今回の知見は、現在の気候モデルにおいて、この同時発生リスクが過小評価されており、世界の食料安全保障に対する脅威が増大していることを示唆している。
地球温暖化は、極端な気象現象の頻度と強度を上昇させ、世界各地で同時発生する可能性を高めている。同時発生した場合の社会的影響は、単独で発生した場合の影響の合計を上回ることがある。例えば、こうした極端な気象現象は、世界の食料安全保障と食料システムのサプライチェーンに影響を及ぼし、輸入に依存する国では、極端な気象に関連した食料価格の高騰、紛争、栄養不足につながる場合がある。従って、不作が同時発生する可能性を解明することは、世界の食料システムのレジリエンスを高め、気候リスクを軽減するために重要だ。
今回、Kai Kornhuberらは、重要な穀倉地帯で同時発生する極端な気象現象の推移を調べるため、1960~2014年の観測データと気候モデルのデータと、2045~2099年の将来予測を分析した。その結果、観測データと気候モデルの両方で、大気中のジェット気流の蛇行が起こる夏季に収量減少が同時発生する可能性が高くなることが示された。将来予測のシミュレーションでは、収量減少が起こりやすい地域が、北半球の全体(東アジア、北米、東ヨーロッパなど)に広がっていた。しかし、最先端のモデルでは、このような大気循環パターンが作物収量に及ぼす悪影響が過小評価されており、今後の不作とそれに関連した食料システム全体に及ぶリスクの評価には不確かさが残っている。
Kornhuberらは、極端な気候現象とその複雑な相互作用をますます管理できなくなる状況を避けるため、温室効果ガス排出量の急速な削減が急務であることを強調している。また、今回の知見は、現在の気候リスク評価に盲点があり、その影響が大きいという可能性を示唆しており、気候分野と農業分野のモデルの改善を推進する研究の強化が緊急に求められていることを明確に示している。
doi:10.1038/s41467-023-38906-7
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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