健康と異常気象:2022年夏のヨーロッパにおける熱関連死亡数の推計
Nature Medicine
2023年7月11日
2022年夏の熱波によって、ヨーロッパ全体での熱関連死亡数は6万1000人を超えた可能性があるとするモデル化研究が報告された。この知見はヨーロッパの35カ国からの4500万人を超える死亡数の記録に基づくもので、夏の熱関連死亡数が最多の国の中にイタリア、スペイン、ドイツが含まれることが示されている。
熱波は世界中で高リスク集団に健康上の脅威をもたらし、罹患率や死亡率を高める原因の1つになっている。地球規模の気温上昇に伴い、熱波や夏の猛暑の発生頻度や強さも高まると予想されている。2022年の夏はヨーロッパの記録では最も暑い夏であった。特徴的だったのは熱波に繰り返し見舞われたことである。欧州連合(EU)の統計局であるユーロスタットは、2022年夏の超過死亡率が高かったことを報告してはいるが、ヨーロッパ大陸全域での熱関連死亡率の影響は、これまで定量的に捉えられていなかった。
J Ballesterらは、ヨーロッパ35カ国からのデータを含むユーロスタットのデータベースから得た4518万4044人という死亡者数を使って、2022年夏の熱関連死亡の負荷を数値化した。そして2022年5月30日~9月4日の間に、高温が原因で6万1672人が死亡したと推定している。この夏の熱関連死亡事象が最も多かったのはイタリア(1万8010人)、スペイン(1万1324人)、ドイツ(8173人)、フランス(4807人)、英国(3469人)、ギリシャ(3092人)であることが明らかになった。人口比で見ると、女性の熱関連死亡者は男性よりも56%多かった。
これらの知見は、ヨーロッパの高温監視プラットフォーム、予防計画、長期的な適応戦略の見直しが必要となる可能性を示していると著者らは結論している。
doi:10.1038/s41591-023-02419-z
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