宇宙での健康:複数回の宇宙飛行の負の側面が宇宙飛行士の脳構造に影響している
Scientific Reports
2023年6月9日
宇宙飛行を経験し、特にミッション期間が長くなり、次のミッションまでの回復期間が短くなると、宇宙飛行士の脳内の液体に変化が生じ、その後の宇宙飛行までに正常な状態に戻らない可能性のあることが明らかになった。このことを報告する論文が、Scientific Reportsに掲載される。宇宙飛行ミッションの長期化(最長6カ月)に伴って、脳室(脳脊髄液で満たされた空間)の拡張が続き、次のミッションまでの回復期間が3年未満になると、脳室が十分に回復しなくなる可能性がある。
宇宙飛行は、ヒトの脳内の広範囲にわたって変化を誘発する。その1つが脳室容積の増加だ。しかし、この変化が、ミッションの期間や宇宙飛行士がそれまでに経験したミッションの回数によって異なるかどうかは分かっていない。今回、Rachael Seidlerらは、30人の宇宙飛行士を対象として、宇宙飛行ミッションの前後に脳のMRI検査を実施した。ミッション期間の内訳は、2週間(8人)、6カ月(18人)、6カ月超(4人)だった。その結果、ミッション期間が長くなると、脳室の拡張が進むが、宇宙での滞在期間が6カ月を超えると、脳室の拡張は次第になくなっていくことが判明した。
今回の研究では、ミッションとミッションの間の回復期間が3年以上だった宇宙飛行士(11人)において、直近のミッションが完了した後に脳室容積の増加が見られた。これに対して、ミッション間の回復時間がそれよりも短かった宇宙飛行士(7人)は、飛行前と飛行後の比較で、脳室の拡張がほとんど認められなかった。Seidlerらは、3年未満というミッション間の回復期間は、脳室の代償能力が回復して頭蓋内液の増加に対応できるようになるために十分でない可能性があり、このように短過ぎる回復期間後に宇宙空間に戻ると、脳室が拡張したままになるという見解を示している。
宇宙飛行がこれまでより頻繁に実施され、長期化しているため、今回の知見は、過去と現在の宇宙飛行経験が脳の変化にどのように影響するかを解明するための手掛かりとなる。Seidlerらは、こうした知見が、今後のミッションの計画に対する指針を改善するために役立つと結論付けている。
doi:10.1038/s41598-023-33331-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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