医学研究:個別化遺伝子治療に役立つ標的特定の枠組み
Nature
2023年7月13日
遺伝子治療薬の1つであるスプライス・スイッチング・オリゴヌクレオチドの標的になるかもしれない遺伝的変異を特定する枠組みについて報告する論文が、Natureに掲載される。この枠組みが希少遺伝性疾患の患者に適用され、治療薬に感受性を有する遺伝的変異を持つ患者かどうかを判定できることが明らかになった。
現在のところ、希少疾患の約95%には治療法がない。一部の疾患は、遺伝的変異の一種であるスプライス部位バリアントによって引き起こされ、このバリアントは、RNAプロセシングを変化させることでタンパク質の発現を阻害する。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、スプライス・スイッチング・オリゴヌクレオチド療法として知られる過程において、こうした遺伝的変異を特異的に標的とするよう設計し、タンパク質レベルを回復させて、病状の改善につなげることができる。しかし、この治療法に適した遺伝的変異を持つ患者を特定することは、依然として難題になっている。
今回、Timothy Yuらは、毛細血管拡張性運動失調症をモデルとして、希少疾患の患者のためのスプライス・スイッチング療法を体系的に探索し、開発するための枠組みを構築した。毛細血管拡張性運動失調症は、ATM遺伝子の2コピーが共に不活性化していることを原因とする劣性(潜性)遺伝性疾患であり、通常は幼児期に発症して、運動の制御が困難になり、その後、小脳変性、免疫不全、がんにかかりやすくなる状態へと進行する。ATM遺伝子は大き過ぎて、遺伝子置換療法のウイルスベクターに入りきらないため、介入の選択肢は限られている。
Yuらは、毛細血管拡張性運動失調症の患者235人を被験者として、この疾患に関連するバリアントを特定するために全ゲノム塩基配列解読を実施し、ゲノムデータの包括的な解析とほぼ全員の完全な遺伝子診断を行った。その結果、アンチセンスオリゴヌクレオチド療法に適合する「可能性が非常に高い」バリアントまたは「可能性のある」バリアントを1つ以上保有していると分類された被験者は、それぞれ全体の9%と6%だった。ATM遺伝子のバリアントのうちの2つは標的療法開発のために選定され、開発されたアンチセンスオリゴヌクレオチドは患者由来の細胞株において有効性が確認された。また、そのうちの1つのアンチセンスオリゴヌクレオチドを出生直後に毛細血管拡張性運動失調症と診断された小児の治療に使用する予備的臨床研究が行われている。この治療が始まって3年の時点で重篤な有害作用は観察されておらず、この複数年にわたる臨床研究は、今も続けられている。
Yuらは、今回の知見は、個別化遺伝子治療がどのように奏功し、ゲノム塩基配列解読データをどのように治療に利用できるかを示す適例だと結論付けている。
doi:10.1038/s41586-023-06277-0
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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