アルツハイマー病:アルツハイマー病に関連する脳脊髄液バイオマーカー
Nature Medicine
2023年7月14日
脳脊髄液中に存在するタウタンパク質断片MTBR-tau243が脳内のタウ凝集や認知機能低下と関連付けられることが、アルツハイマー病患者の2つのコホートで明らかにされた。これらの知見は、このバイオマーカーならば複雑な画像化を使わずにアルツハイマー病の程度を測定でき、病気の進行を追跡するのに使える可能性を示唆している。
脳内でのタウタンパク質の蓄積によって生じた不溶性のタウ凝集体は、アルツハイマー病の決定的特徴の1つである。脳内のタウ凝集を定量するために現在使われている方法の中では、陽電子放射断層撮影法(PET)が最も正確である。しかしこの検査方法は非常に高額な上に複雑な設備を必要とするので、使用できるのは高度に専門的な施設に限られる。これに比べると、液体バイオマーカーは採取にそれほど費用はかからず、臨床現場でも使いやすい。MTBR-tau243がタウ凝集の脳脊髄液バイオマーカー候補であることは、以前に行われたアルツハイマー病患者での小規模な予備的研究で明らかにされている。
以前の研究に基づいて、R BatemanとO Hanssonらは、アルツハイマー病患者の2つのコホート(448人のコホートと219人のコホート)から得られたアミロイドとタウのPET画像とMTBR-tau243の存在とを比較して、MTBR-tau243がバイオマーカーとして使えるかどうかを評価し、また、MTBR-tau243を使った判定結果を脳脊髄液中のリン酸化タウを測定する他の方法と比較した。どちらのコホートでも、PET画像で観察されるタウのレベルと最も強く関連するバイオマーカーはMTBR-tau243だったが、PETで見られるアミロイドとの関連はMTBR-tau243が最も低いことが分かった。この特徴は、他のタウバイオマーカーがアミロイドバイオマーカーの影響を受けることがあるため、それらはタウ病変単独よりもアミロイド病変との関連が強いという特徴を持つ点で異なっている。著者らはまた、MTBR-tau243はアルツハイマー病患者の臨床的な認知機能変化と最も密接に関連するバイオマーカーであると示唆している。
これらの知見によって、MTBR-tau243はアルツハイマー病で見られるタウ凝集の特異的で正確なバイオマーカーであり、アミロイド病変の変化に影響を受けないことが明らかになった。著者らは、MTBR-tau243はアルツハイマー病の進行を正確に追跡するのに使えると考えており、今後、動物モデルを使った研究によって今回の知見がさらに確認されるだろうと述べている。
doi:10.1038/s41591-023-02443-z
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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