心理学:幸福感を高める戦略の有効性を再考する
Nature Human Behaviour
2023年7月21日
マインドフルネスや運動といった、幸福感を高めるためにメディアで最も広く勧められている戦略の一部には、科学的証拠による基盤の弱いものがあることが、系統的レビューから示唆された。このことを報告する論文が、Nature Human Behaviourに掲載される。
心理学の領域における質の高い科学的証拠の基準は、過去10年間で変化してきた。選択的な報告や特定の参加者の除外といった過去の一般的な研究慣行は、結果における偽陽性数を増やす恐れがあった。現在では、多くの心理学者たちが研究を事前に登録して、特定の方法論的な判断や分析における判断を事前に約束し、研究のサンプル数を多くして、研究の統計的検出力を改善している。
Dunigan FolkとElizabeth Dunnは今回、幸福感を高めるための一般的な戦略の基礎となる経験的な証拠を調べた。具体的には、インターネットを利用したメディアレビューを行い、幸福感を高めるために最も一般的に推奨されている5つの戦略(感謝の気持ちを表すこと、社交性を高めること、運動をすること、マインドフルネスや瞑想を行うこと、自然に触れる機会を増やすこと)を特定した。次に、発表済みの科学文献を探索し、非臨床サンプルにおけるそれら5つの戦略のうち1つによる幸福の利益を調べた494報の論文と、532件の研究を特定した。著者らは、自然に触れる機会の増加、運動、マインドフルネスや瞑想の実践に基づく実験の約95%において、対象研究には、顕著な利益を見いだすための十分な統計的検出力が欠けていることを見いだした。また、健常者を対象にそうした戦略の主観的なウェルビーイングに対する影響を調べた研究のうち、事前に登録されていたか、あるいは適切な統計的検出力を有する実験を実施していた研究は57件だけであることも見いだした。
著者らは、主流メディアが推奨する幸福戦略がウェルビーイングを実際に高めるかどうかは不明であり、そうした戦略について調べるためには、十分に検出力の高い事前登録研究が必要であると結論している。
doi:10.1038/s41562-023-01651-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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