生態学:深海では殻のある動物と体の軟らかい動物が深度帯で分かたれている
Nature Ecology & Evolution
2023年7月25日
水深4キロメートル以上の深海にある明確な移行帯が、深海の生物を体のタイプごとに分けていることを報告する論文が、Nature Ecology & Evolutionに掲載される。この移行帯よりも浅いところでは殻のある動物が多く見られたのに対し、深い側は体の軟らかい動物が優占していた。
深海帯は地球上で最も広大な生物生息環境で、地球の表面の60%以上を占めているが、最も調査が進んでいない場所でもある。水深3~6キロメートルにあって太陽光が届かず、水温は0.5~3℃で、生物は適応して極端な高圧に対処しなければならない。深海には浅海の生態系ほどの種数がないと考えられているが、生物多様性が深海帯内でどう変化しているかは明らかにされていない。
今回Erik Simon-Lledóらは、太平洋のクラリオン・クリッパートン海域(Clarion–Clipperton Zone)で行われた12回の深海探査で撮影された画像を照合し、海底付近に生息する5万以上の大型動物相(大きさ10ミリメートルを超える動物)の存在に関するデータを解析した。その結果、深海の動物相に2つの異なる区域が見いだされた。水深3.8~4.3キロメートルの浅深海群集はウミトサカ類(ソフトコーラル)やクモヒトデ類(ヒトデの近縁生物)、有殻軟体動物(貝類)が優占し、水深4.8~5.3キロメートルの深深海群集はイソギンチャク類やガラスカイメン類、ナマコ類が優占していた。両区域の間にある移行帯では、これら2つの群集が混合していた。深海では、深いほど生物多様性が低下すると考えられがちだが、生物多様性はこの境界をまたいで維持されていた。Simon-Lledóらは、深海でのこうした明確な帯状分布は、炭酸塩補償深度によって決定されている可能性があると示唆している。炭酸塩補償深度とは、海水中の炭酸カルシウムが不飽和となる深度のことで、それ以深は動物の殻が形成される条件に適さなくなる。
Simon-Lledóらは、気候変動と海洋酸性化がこの帯状分布を変化させる可能性があり、深海の採鉱による影響も重なると、その生態系が脆弱化すると論じている。
doi:10.1038/s41559-023-02122-9
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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