気候変動:AMOCが21世紀半ばに崩壊する可能性
Nature Communications
2023年7月26日
熱帯の暖かい海水を北大西洋へと北向きに運ぶ大規模な海流系である大西洋の南北方向の鉛直循環(AMOC)は、地球上での温室効果ガスの排出がこのまま続いた場合、21世紀半ばごろに崩壊する可能性があり、2025年を過ぎれば、いつ起こっても不思議でないという予測が示された。このことを報告する論文が、Nature Communicationsに掲載される。この予測は、人間活動が地球の気候システムに及ぼす影響を明確に示している。
AMOCは、地球の気候システムにおいて、最も重要な転換要素の1つであり、不可逆的な状態に陥る可能性をはらんだサブシステムだ。AMOCが崩壊する可能性があることは、大きな懸念事項であり、北大西洋地域と全世界の気候に深刻な影響を与えると考えられている。この種の急激な気候変化が最後に起こったのは、AMOCの崩壊と回復を原因とした最終氷期のダンスガード-オシュガーイベントで、これによって、北半球の平均気温は10年間に10~15℃変動した。これは、1世紀で1.5℃という現在の変動幅よりはるかに大きい。AMOCの強度の継続的観測は2004年になって始まった。この観測で、AMOCが弱化していることが示されているが、その規模を評価するには、もっと長期間の観測記録が必要とされる。最近のIPCCの評価では、21世紀中にAMOCが完全に崩壊する可能性は低いことが示唆されている。
今回、Peter DitlevsenとSusanne Ditlevsenは、1870~2020年の北大西洋の海面水温をAMOCの代理指標として分析した。この海面水温の観測記録は、AMOCの直接測定記録よりもはるかに長期間にわたっており、温度の傾向に関しては、よりロバストな情報が得られる。分析の結果、AMOC系の重大な転換を示す早期警告シグナルが見つかり、早ければ2025年、遅くとも2095年までにAMOC系が停止または崩壊する可能性のあることが示唆された。
著者らは、AMOCの変化の駆動要因に関する仮説を示していないが、研究対象期間中に大気中のCO2濃度がほぼ直線的に増加したことを指摘している。ただし、その他の機構が働いた可能性を排除することはできず、AMOCの崩壊が部分的なものとなる可能性も否定できない。
doi:10.1038/s41467-023-39810-w
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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