保全:アマゾン川で絶滅危惧種のイルカが発する音に耳を傾ける
Scientific Reports
2023年7月28日
アマゾン川の調査の難しい水域に生息する絶滅危惧種の淡水イルカ2種(アマゾンカワイルカとコビトイルカ)の動きと人々との相互作用を追跡調査するために、イルカの反響定位クリック音のモニタリングを使用できるかもしれないことを報告する論文が、Scientific Reportsに掲載される。今回の研究では、この方法の有効性を調べる試験が行われて、イルカの動きと行動に関する新たな知見が得られた。この知見は、これらのイルカ種の保全戦略に寄与するかもしれない。
アマゾンカワイルカ(Inia geoffrensis)とコビトイルカ(Sotalia fluviatilis)は、いずれも人間活動(漁師との対立や、農業、鉱業、ダム建設による圧力など)のために絶滅が危惧されている。これら2種のイルカは、雨季(4~8月)になると、淡水魚を追って、アマゾン川の河道に接する氾濫原森林(バルゼア)に入り込む。しかし、氾濫原であることとその植生のため、ボートやドローンを使ったイルカの調査は非常に難しい。
今回、Florence Erbs、Michel Andréらは、水深3~5メートルに設置した5台のハイドロフォン(水中集音マイク)を使って、ブラジルのソリモンエス川とジャプラ川が合流するマミラウア持続可能開発保護区(800平方キロメートル)を調査した。この調査では、2019年6月から2020年9月までの雨季と乾季の異なる時期に、河道、合流点に形成された入り江、氾濫原湖、水没林での音が記録された。著者らは、深層学習アルゴリズム(畳み込みニューラルネットワーク)とボート調査で手作業で録音された音声データを使用した。検出された音は、イルカの反響定位クリック音、ボートのエンジン音、雨音に、それぞれ95%、92%、98%の精度で自動的に分類された。
調査の結果、11~1月に水位が上昇するにつれて、入り江と河道でイルカの存在が検出された時間が1日の10%から70%まで増加したことが明らかになった。著者らは、2種のイルカが入り江と河道を使って氾濫原に入っていたと示唆している。仔を伴った雌と青年期のアマゾンカワイルカは、雄よりも氾濫原で過ごす時間が長かった。著者らはその理由として、氾濫原に餌となる淡水魚が数多く生息していたこと、あるいは氾濫原が雄の攻撃的な行動からの避難場所であったことを挙げている。
著者らは、アマゾン川に生息するイルカの生息地選好性やイルカが必要としているものに関する理解を深めるために、この方法を用いることを呼び掛けている。
doi:10.1038/s41598-023-36518-1
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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