社会科学:地中海中央部で非正規移民の捜索救助を行うと北アフリカから地中海を渡る移民が増えるということではないようだ
Scientific Reports
2023年8月4日
2011~2020年に実施された地中海中央部を横断する移民を乗せた船舶の捜索救助活動は、この期間中の移民の地中海横断の回数に影響を与えなかったことが示唆された。このことを報告する論文が、Scientific Reportsに掲載される。この知見は、捜索救助活動が実施されるために移民が地中海中央部の横断を試みる回数が増え、移民の死亡リスクが高まったという従来の学説と矛盾しているように見える。
北アフリカから地中海を横断してイタリアに到達するルートは、海路でヨーロッパに移動しようとする移民、難民、亡命希望者が最も頻繁に使用する経路の1つだ。今回、Alejandra Rodríguez Sánchezらは、移民が地中海中央部の横断を試みた回数のデータ、チュニジアとリビアに送還された船舶のデータ、移民の死亡報告数に関するデータを、欧州国境沿岸警備機関(FRONTEX)、チュニジアとリビアの沿岸警備隊、国際移住機関(IOM)、UNITED for Intercultural Actionから取得し、これらのデータを用いて、2011~2020年に移民が地中海中央部の横断を試みた回数の変化をモデル化した。次に、この期間中に観察された移民の地中海中央部の横断回数の変化を予測する因子として最も適したものを見つけ出すために、このモデルを使ってシミュレーションを行った。ここでは、国家主導と民間主導の捜索救助活動の回数、為替レート、世界の物価、失業率、紛争、暴力、アフリカ・中東とヨーロッパ諸国との間の航空交通流、気象条件などの予測因子が評価された。
その結果、移民が地中海中央部の横断を試みた回数の変化が、国家主導と民間主導の捜索救助活動によって生じないことが示唆された。これは、移民の地中海中央部の横断が、捜索救助活動によって助長されないという可能性を示している。一方、紛争の強度、物価、自然災害の他、気象条件、為替レート、北アフリカ・中東諸国とEUの間の航空交通の変化は、移民の越境の試みを促進した可能性のあることが示された。これとは対照的に、2017年以降にリビア沿岸警備隊の介入が増えて、地中海中央部を横断しようとした船舶を拿捕し、リビアへ送還したことは、移民の横断の試みを減らし、移住を思いとどまらせる効果があった可能性がある。Sánchezらは、船舶の拿捕や送還によって地中海中央部を横断する試みる回数は減った可能性があるが、それと同時に、リビア沿岸警備隊が船を拿捕・送還した時だけでなく、リビアの拘留施設においても、移住希望者の人権状況が悪化しているという報告が寄せられていると指摘している。
以上の知見をまとめると、2011~2020年の地中海中央部の横断による移住を促進したのは、捜索救助活動ではなく、紛争や経済・環境状況などの要因であった可能性が示された。Sánchezらは、今後の研究で、捜索救助活動が、個々の移民や地中海中央部の横断による非正規移住を斡旋する人の意思決定過程に及ぼす影響可能性を調べる必要があることを指摘している。
doi:10.1038/s41598-023-38119-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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