気候変動:南極海の植物プランクトンブルームは遅く始まり短く終わる傾向がある
Nature Climate Change
2023年8月29日
南極海の大部分における植物プランクトンの大増殖(植物プランクトンブルーム)の発生時期が、過去25年間で10年当たり最大50日変動した可能性のあることを明らかにした論文が、Nature Climate Changeに掲載される。そのために、南極の食物網の同期化と全球の炭素吸収が影響を受けている可能性が高い。
南極大陸を取り囲む南極海は、気候変動の影響を緩和するという点で突出した役割を果たしている。南極海の炭素吸収は、全球の海洋による炭素吸収の50%を占めており、大気中に残存する過剰な人為起源の炭素によって発生する熱の75%が南極海に吸収されている。この炭素吸収の一部は、この地域の海洋食物網の基盤としても機能する植物プランクトンによって推進されている。植物プランクトンブルームの発生量と発生時期は、気候変動によって変化することが予想されているが、この変化の方向と規模に関する予測については、ほとんど合意が得られていない。
今回、Sandy Thomallaらは、25年間(1998~2022年)に人工衛星によって収集した海の色(クロロフィルa濃度)のデータを解析した。このデータは、植物プランクトンのバイオマスの代理指標として用いられるもので、高い空間解像度(約1キロメートル)と時間解像度(約1日)で収集された。Thomallaらは、植物プランクトンブルームの開始時期が繰り下がり、終了時期が繰り上がって、その結果として発生期間が短くなり、季節性が変化し、振幅が大きくなるという全体的な傾向を示唆している。このようなブルームの発生期間の短縮によって、南極海に移出し、貯蔵される炭素の量が減ると予想される。これに対する例外の1つは、南極海で海氷の影響を受ける海域で、ブルームがかなり早期に開始し、発生期間が長くなっている。これは、海氷濃度の低下と海氷域の減少に応答した現象である可能性が高い。このような変化は、10年当たり最大50日の変動であり、これまでの研究における地球システムモデルによる予測(10年当たり最大10日の変動)よりも大きな変化となった。
Thomallaらは、植物プランクトンブルームの発生時期や発生量の変化が、食物網だけでなく炭素吸収にも影響を与え、大型の海洋生物種(アザラシ、海鳥、ザトウクジラなど)の栄養ストレス、繁殖成功率、生存率に影響を及ぼすかもしれないと指摘した上で、気候変動によって南極海の状況がさらに変化するにつれて、これらの傾向が続き、場合によっては加速することが予想されると述べている。
doi:10.1038/s41558-023-01768-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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