環境:米国における鳥類の多様性データには人種に基づく歴史的な地域分類策が反映している
Nature Human Behaviour
2023年9月8日
米国195都市のうち、レッドライニング(金融機関による、主に人種に基づいて区別するための区域分け)が歴史的に行われてきた地域では、鳥類の生物多様性に関するデータが極めて少ないことを明らかにした論文が、Nature Human Behaviourに掲載される。今回の知見は、歴史的な人種に基づく区域分け策が、環境や生物多様性に関する過去と現在の情報に影響を及ぼし、今日の生物保全活動に大きな意味を持つことを示唆している。
レッドライニングは、人種に基づく米国の都市の区域分け策で、その起源は1930年代にさかのぼる。地域が主に人種構成に基づいて分類され、金融サービスへのアクセスに差が設けられた。そうした区域は現在は存在しないが、過去にレッドラインの引かれた地域は、高い貧困レベル、不良な健康状態、少ない緑地と関連している。生物多様性は人間活動や気温の上昇の影響を受け、生態系の機能、ひいては人々の幸福に関わる。生物多様性の変化に関するデータを経時的に集めることは、そうした変化を引き起こす要因を解明する上で不可欠である。
今回、Diego Ellis-Sotoらは、1932~2022年に全米195都市の9851地区で収集された1200万件以上の地理参照情報を伴う鳥類記録を用いて、レッドライニングと、生物多様性を理解する上で重要な指標となる鳥類多様性のサンプリング密度と完全性との関連を示す証拠を検討した。その結果、過去にレッドラインが引かれた地域には、植生や空き地の程度の差とは無関係に、鳥類データの完全な記録が一貫してほとんど存在しないことが示唆された。Ellis-Sotoらは、こうした事実は生物保全活動に影響を及ぼす可能性が高く、都市環境の不平等を助長する可能性があると指摘している。また、今回の知見から、鳥類の生物多様性のサンプリングが、歴史的に区域分けされた地域では経時的に不均衡になっており、格差は2000年から2020年までの間に35.6%増大したことも明らかとなった。
Ellis-Sotoらは、これらの知見から、米国内の歴史的にレッドラインの引かれた地域においては鳥類の生物多様性に関する知識が不十分であること、またこうした偏りが、地域間の生物多様性の比較に影響を及ぼしている恐れがあり、生物保全活動や国および州レベルの大規模な保全投資に影響する可能性があることを示唆している。
doi:10.1038/s41562-023-01688-5
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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