環境:米国の気候変動関連政策が大気汚染への曝露に与える影響の評価
Nature Communications
2023年9月20日
米国連邦政府の気候変動関連政策は、微小粒子状物質による大気汚染物質の排出とそれに伴う健康への影響を減らすことができるが、短期的なCO2排出量の削減だけでは、大気汚染への曝露における人種・民族間格差に十分に対処できない可能性のあることが明らかになった。このことを報告する論文が、Nature Communicationsに掲載される。
温室効果ガス排出量の削減を目標とする気候変動関連政策は、同時に排出される大気汚染物質の排出量の削減を通じて大気の質を改善することができる。その一例が、発電のための化石燃料の燃焼を抑制することで、化石燃料の燃焼は大気汚染物質とCO2の排出源になっている。米国がパリ協定を遵守するためには、温室効果ガス排出量を約50%削減する必要がある。この排出量削減が達成されると、化石燃料の燃焼を原因とする微小粒子状物質(PM2.5)への曝露が低下し、大気の質が改善されることになる。しかし、大気汚染への曝露に関して存在している集団間格差を縮小するという目標の達成に対して、気候変動関連政策がどの程度寄与できるかについては、ほとんど解明されていない。
今回、Noelle Selinらは、米国連邦政府の脱炭素化戦略が米国でのPM2.5曝露における人種・民族集団間格差に影響を及ぼす過程をモデル化し、2030年の経済全体のCO2排出量の削減を40~60%の幅(2005年比)で実現できると考えられる複数の政策が格差縮小にどの程度寄与するかを調べた。その結果、2030年にCO2排出量の50%削減が実現される場合に、PM2.5への平均曝露量が、米国の非ヒスパニック系白人コミュニティーで0.37マイクログラム/立方メートル減少し、黒人コミュニティーで0.44マイクログラム/立方メートル減少することが判明した。確かに全ての集団にとって大気の質が改善されたが、PM2.5への平均曝露量の集団別占有率は、人種的・民族的マイノリティーが12.4%から13.1%に増加した。その主たる原因は、アジア系、ヒスパニック系とその他のマイノリティー集団のPM2.5への曝露の占める割合が増えたことにある。
Selinらは、これと同程度のCO2排出量の削減を短期間に達成する他のシナリオでは、こうした大気質改善政策の不公平を有意に改善できる可能性が低いと述べている。米国の政策当局者は、的を絞った思慮深い取り組みを通じて、確実に脱炭素化を実現し、気候変動と公平性の目標を達成できるようにすべきであり、脱炭素化のコベネフィット(共通便益)が全国に公平に行き渡るように取り組むべきである。Selinらは、大気汚染への曝露における公平性に取り組むために大規模な構造改革が必要になる可能性があり、そのための戦略の策定には関連情報の充実が必要であると指摘している。
doi:10.1038/s41467-023-41131-x
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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