農業:窒素肥料の使用量の世界的分布を見直して穀物生産を守る
Communications Earth & Environment
2023年9月29日
世界中で使用されている窒素肥料の使用量の分布を平準化することによって、現在の穀物生産量を維持しつつ、窒素肥料の総使用量を32%削減することができるという知見を報告する論文が、Communications Earth & Environmentに掲載される。今回の研究は、世界の耕作地における窒素肥料の分布を見直すことで、食料安全保障を達成しつつ、窒素汚染を大幅に削減できる可能性を示唆している。
トウモロコシ、コムギ、イネなどの穀物は、通常の場合、その成長と生産力向上のために化学窒素肥料の施用を必要とし、現在、世界の全窒素肥料使用量の約60%を穀物生産が占めている。しかし、かなりの量の窒素肥料が土壌や地下水に浸出して、より広範な環境での窒素汚染を悪化させ、あるいは温室効果ガス(N2O)として排出される。このことは、窒素肥料の施用量が相対的に多い北米、ヨーロッパ、東アジアの主要生産地に固有の問題となっている。
今回、Andrew Smeraldらは、さまざまな地域でさまざまな量の窒素肥料(年間ヘクタール当たり0~600キログラムの窒素肥料)を施用するシミュレーションを行い、2015~2030年のトウモロコシ、コムギ、イネの総生産量を推定することで、窒素肥料の使用量の世界的分布を見直した場合の効果をモデル化した。
その結果、伝統的な「穀倉地帯」(米国中西部や中国東部など)での窒素肥料の使用量を減らし、その代わりに十分に利用されていない生産地域(サハラ以南のアフリカなど)での使用量を増やすことで、窒素肥料の総使用量を32%削減しても、2030年の時点で現在の穀物生産量を維持できることが判明した。サハラ以南のアフリカでの穀物生産量の増加が、他の地域での生産量の減少を補うことになる。この方法により、コムギ生産の場合は、世界の生産量を減少させずに窒素肥料の使用量が45%削減され、硝酸塩の浸出が71%削減される。また、トウモロコシ生産の場合は、窒素肥料の使用量が33%削減され、硝酸塩の浸出が63%削減される。
Smeraldらは、窒素肥料の使用量の世界的分布を平準化することで、伝統的な穀倉地帯での穀物生産に対する依存度を下げ、窒素肥料の使用量が相対的に多い地域の窒素汚染を減らすことができるだけでなく、サハラ以南のアフリカのような十分に利用されていない地域での食料安全保障の向上を支援できる可能性があると結論付けている。
doi:10.1038/s43247-023-00970-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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