進化:魚類種の繁栄は「先着順」で決まるわけではない
Nature
2023年10月5日
東アフリカのビクトリア湖におけるカワスズメ科のシクリッドの1万7000年にわたる進化史を報告する論文が、今週、Natureに掲載される。今回の研究では、魚の歯の化石7500点以上の解析が行われ、カワスズメ科のシクリッドの適応放散と急速な多様化に関する知見がもたらされた。
ビクトリア湖には500種を超えるシクリッドが生息しており、現在のビクトリア湖が形成された約1万7000年前から現在までに急速に進化し、さまざまな生態的地位(ニッチ)を占有している。このような進化の爆発は適応放散と呼ばれる。適応放散の特定の側面を巡っては論争が続いており、その1つが、先に定着した生物種が後から定着した生物種よりも有利であるかどうかという論点である。
今回、Nare Ngoepeらは、ビクトリア湖に生息する全ての魚類の歴史を示す一連の堆積物コアから抽出した7623点の魚の歯の化石を調べた。Ngoepeらは、ビクトリア湖が形成され始めた頃は浅い湖で、シクリッド、ナマズ、コイに似たコイ亜目の魚類など、さまざまな魚種が定着していたと報告している。それから数千年にわたってビクトリア湖の水量が増加し続けると、シクリッドの2つの分類群に属する魚類は水深の深い水域を新たな生息地として占有し、残りの魚類種が浅瀬にとどまった。今回の知見は、カワスズメ科のシクリッドがビクトリア湖で繁栄したのは、遺伝的背景と生態的多能性という2つの条件が揃っていたからであり、最初にビクトリア湖で定着したからでも、初期のビクトリア湖で個体数が最も多かったからでもないと示唆している。
同時掲載のNews and Viewsでは、Martin Gennerが、カワスズメ科のシクリッドの繁栄に役立ったかもしれない3つの重要な特徴を論じている。それは、(1)顎の構造の進化可能性が高く、さまざまなタイプの獲物を採餌できたこと、(2)性選択が強く働き、それが繁殖率の向上につながった可能性があること、(3)他のシクリッド種と交雑し、機会があれば適応放散できる遺伝的基盤が形成されていたこと、である。
doi:10.1038/s41586-023-06603-6
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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