考古学:骨格化石が明らかにする初期人類の争い
Nature Human Behaviour
2023年10月10日
中東で得られた考古学上の証拠から、個人間の暴力が時代とともに変動し、約4500~3300年前にピークに達していたことを示唆する論文が、Nature Human Behaviourに掲載される。この知見は、3500人分を超える遺骨の解析に基づいており、初期のヒト社会における争いの歴史の解明に新たな手掛かりをもたらすものである。
個人間の暴力(暴行、殺人、奴隷、拷問、独裁、残酷な刑罰、暴力的抗争など)の長期的な変化傾向に関するこれまでの理解は、さまざまな時期における証拠が存在しないために困難であった。個人間の暴力は数千年にわたって減少し、啓蒙時代(紀元17~18世紀)以降は急速に減少したと考えられてきたが、異論もある。殺人に関する記録が利用可能なのは近年のみであり、過去の争いの記録における報告上の偏りが、時代を遡った理解を限られたものにしている。
今回、Giacomo Benatiらは、中東7カ国(トルコ、イラク、イラン、シリア、レバノン、イスラエル、ヨルダン)の紀元前1万2000~400年の3539人分の遺骨に関する詳細なデータセットを使用した。そして、頭蓋外傷や武器による傷の証拠を示す骨格化石の割合に注目して、個人間の暴力の強度を評価した。その結果、個人間の暴力は4500~3300年前の金石併用時代にピークを迎えたことが示唆された。暴力はその後、青銅器時代の初期~中期(紀元前3300~1500年)に減少し、青銅器時代後期と鉄器時代(紀元前1500~400年)にかけて再び増加したことが分かった。
金石併用時代の暴力は、最初期の中央集権化された原始国家が出現し、偶発的な内紛から大規模な組織的抗争へと移行した時期と一致する可能性があると示唆している。またBenatiらは、鉄器時代への移行期には、300年にわたる干ばつ、人口の分散、資源の圧迫などが見られ、これらが暴力の発生に何らかの役割を果たした可能性があると述べている。Benatiらは、今回の知見が、初期のヒト社会における個人間の暴力に関する理解を深めるものであると結論付けている。
doi:10.1038/s41562-023-01700-y
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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