微生物学:殺生物剤がアシネトバクター属細菌の抗生物質耐性を促進する恐れ
Nature Microbiology
2023年10月10日
消毒薬や防腐剤などに広く使われる低レベルの殺生物剤が、外傷や血液、肺に重度の感染を引き起こす多剤耐性院内感染菌であるアシネトバクター属細菌(Acinetobacter baumannii)の抗生物質耐性を増加させる可能性があることを報告する論文が、Nature Microbiologyに掲載される。この細菌は、血液や尿路、肺への感染(肺炎)、あるいは体の他の部分に生じた傷への感染の原因となることが知られている。今回の知見は、残留した程度の殺生物剤によって、抗生物質耐性や抵抗性が増幅される恐れがあることを示唆している。
殺生物剤とは、漂白剤やアルコール、硝酸銀などのように、細菌などの微生物を殺すために、家庭や病院をはじめ、さまざまな環境で広く使われている化学薬品である。しかし、それらがどのような仕組みで細菌を殺すのかは、現在のところほとんど知られていない。そのため、これらが規制されずに広く使われていることが、A. baumanniiのような重要なヒト病原体の抗生物質抵抗性が発生する一因になっている可能性が懸念されてきた。
今回Ian Paulsen、Amy Cainらは、臨床上問題となる10種類の殺生物剤に対するA. baumanniiの感受性を、高めたり低下させたりする細菌遺伝子を探すため、遺伝子スクリーニングを行った。その結果、以前の研究で示されたように、ある種の殺生物剤(クロルヘキシジン、ベンザルコニウムなど)が細菌の重要な生物過程に影響し、細胞表面だけを標的とするのではなく、細胞の内部にも作用することを発見した。A. baumanniiは、これらの有毒化合物、中でもクロルヘキシジンとベンザルコニウムに対して低レベルでも反応し、そういった変化が、複数の異なった種類の抗生物質に曝露された場合の生存や成長に役立つ可能性があることが分かった。
著者らは結論として、殺生物剤は使用が普及しているために環境中に低レベルで残留し、それが病原性細菌の抗生物質耐性や抵抗性を促進している恐れがあると述べている。
doi:10.1038/s41564-023-01474-z
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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