生物工学:鳥インフルエンザに抵抗性を示すニワトリの生物工学的作出
Nature Communications
2023年10月11日
遺伝子編集技術を用いて鳥インフルエンザの感染に対して抵抗性を示すニワトリを作製するという概念実証研究が行われ、抵抗性の作出が部分的に成功したことを報告する論文が、Nature Communicationsに掲載される。この知見は、鳥インフルエンザに感染した野鳥から飼育下の家禽への感染拡大を抑制するための戦略として有用なものとなる可能性がある。
鳥インフルエンザは、アジア、ヨーロッパ、アフリカ、南北アメリカで広範囲に流行しており、野鳥種にとっての脅威となり、農業生産者に経済的損失をもたらし、ヒトの健康へのリスクになっている。家禽を対象とした鳥インフルエンザワクチンの接種は、抗原連続変異が次々と起こるためにいまだに信頼性が低く、政治的・経済的な影響が生じるために議論の的となっている。ニワトリに感染する鳥インフルエンザの生活環は、ニワトリ(宿主)のタンパク質(ANP32A)に依存しており、ANP32Aが、鳥インフルエンザ感染への抵抗性を示すニワトリを作製する研究の標的候補になっている。
今回、Mike McGrewらは、ニワトリの始原生殖細胞(生殖細胞の前駆細胞)のANP32A遺伝子を編集し、鳥インフルエンザA型ウイルスの活性を制限した。このニワトリが成体になってから、ウイルス感染した他のニワトリに由来するインフルエンザA型ウイルスを攻撃接種すると、生理的用量のウイルスを接種されたニワトリは、ウイルスに対する抵抗性を示し、高いレジリエンスを示した。これに対して、ウイルス量を1000倍にすると、遺伝子編集されたニワトリは抵抗性を示さなかった。このニワトリについては、実験後2年間以上にわたり観察が続けられたが、健康や産卵生産性に悪影響は見られなかった。McGrewらは、ANP32A遺伝子に関連する他の遺伝子(ANP32BとANP32E)のさらなる編集と欠失によってウイルスの複製を阻止できるだろうという考えを示している。
以上の知見は、遺伝子編集が鳥インフルエンザの感染に抵抗性を示すニワトリを作製する方法となる可能性を示唆している。ただし、McGrewらは、ニワトリの健康に絶対に影響が生じないようにするためにはさらなる研究が必要で、ウイルスが進化する可能性を排除するためにはANP32ファミリーの複数の遺伝子を編集する必要があるかもしれないと注意を促している。
doi:10.1038/s41467-023-41476-3
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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