生態学:古代の地球寒冷化が海洋生物の多様化の引き金となった可能性
Nature Communications
2023年10月11日
オルドビス紀に起こった海洋生物の多様性爆発事象(Great Ordovician Biodiversification Event)は、主に約5億年前の地球の寒冷化によって引き起こされ、地球史上最大の海洋生物の多様性増加につながった可能性があることを示した論文が、Nature Communicationsに掲載される。この多様性爆発事象では、現代の海洋生物の多様性パターンの基礎を築いた動物の進化的放散が起こっていた。
オルドビス紀(4億9000万~4億3000万年前)に海洋生物の多様性の顕著な増加が起こったことは、古生物学的データによって十分裏付けられている。この生物多様性増加の引き金となった事象については、気温の変化、海水準の上昇、大気の酸素化、小惑星の衝突など、いくつかの仮説があるが、原因解明には至っていない。
今回、Daniel Ontiveros、Alexandre Pohlらは、気候モデルと生態学モデルを組み合わせて、地球規模の生物多様性パターンをシミュレーションし、オルドビス紀の長期的な寒冷化傾向や物理的景観の変化に対する海洋生物多様性の応答を定量化した。その結果、オルドビス紀初期には熱帯の海洋の水温が高過ぎて海洋生物の生息数が多くならなかったため、生物多様性の緯度勾配が今とは逆だったことが分かった。当時、生物多様性が最も高かったのは、熱帯地域ではなく、高緯度地域だった。そして、オルドビス紀が進むと、地球の気候の寒冷化によって熱帯地域が海洋動物の代謝に適するようになり、熱帯に生息する生物の種数が徐々に増えていったことがモデルによって示された。
著者らは、この多様性爆発事象には、他の生態的・進化的要因も関係していたが、気候寒冷化がオルドビス紀の海洋生物多様性爆発事象の発生と進行に決定的な役割を果たした可能性が高いという見解を示している。
doi:10.1038/s41467-023-41685-w
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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