医学:ヒトに移植するブタの臓器の適合性の改善
Nature
2023年10月12日
遺伝子組み換えブタから非ヒト霊長類への腎移植の設計とその成功について報告する論文が、Natureに掲載される。今回の前臨床研究では、ドナーとなるブタのゲノムを改変して抗原をコードする遺伝子を除去し、ヒトの遺伝子を導入し、ブタのウイルスを不活化した。このブタの腎臓を移植されたカニクイザルは、約2年間という長期にわたって生存した。今回の知見により、遺伝子組み換えブタの腎臓をヒトに移植する臨床試験が一歩近づいたかもしれない。
動物の臓器をヒトに移植すること(異種移植)は、世界的な臓器不足の解決策となる可能性がある。ブタは、移植用の臓器を提供するドナー動物として有望視されているが、その臓器が臨床的に使用可能なものとされるためには、いくつかの障害を克服しなければならない。特に注目されるのが、移植された臓器の拒絶反応と人獣共通感染症(動物ウイルスのヒトへの伝播)のリスクの克服だ。これまでの研究から、ブタに発現する3種類のグリカン抗原が、ヒトの抗体に認識されて攻撃され、臓器の拒絶につながることが示されている。また、ブタの内在性レトロウイルスは、ヒトに感染するリスクがあることが判明している。
今回、Wenning Qinらは、この先行研究を踏まえて、ドナーブタのゲノムを改変し、この遺伝子組み換えブタの腎臓をカニクイザル(いくつかのヒトに近い形質を持つ非ヒト霊長類)モデルに移植することに成功した。Qinらは、ドナーブタ(ユカタン系ミニブタ)に69カ所のゲノム編集を施して、拒絶反応を誘発すると考えられる3種類のグリカン抗原をノックアウトし、(霊長類の免疫系の攻撃力を低下させるために)7種類のヒト導入遺伝子を過剰発現させて、ブタのレトロウイルス遺伝子のコピーを全て不活性化した。このドナーブタから腎臓を移植されたカニクイザルの生存期間(中央値)は176日で、グリカン抗原のノックアウトだけが実施されたブタから腎臓を移植された場合の24日よりもかなり長かった。これは、これらのヒト導入遺伝子の発現が拒絶反応に対するある程度の防御になることを示唆している。また、免疫抑制療法を併用すると、この移植によるカニクイザルの長期生存期間は最長758日となった。Qinらは、以上の結果が、将来の臓器移植医療においてブタの臓器が有望であることを示し、この技術を臨床試験に一歩近づけるものだと結論付けている。
doi:10.1038/s41586-023-06594-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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