考古学:ネアンデルタール人によるホラアナライオンの狩猟を示す最古の証拠
Scientific Reports
2023年10月13日
ドイツで発見された4万8000年前のホラアナライオン(Panthera spelaea)の胸郭にあった刺し傷は、古代のネアンデルタール人の木製の槍によって突き刺さされた時の傷である可能性があり、ネアンデルタール人によるライオンの狩猟と解体の最も古い事例であるかもしれないと報告する論文が、Scientific Reportsに掲載される。今回の研究では、ネアンデルタール人がホラアナライオンの毛皮を使っていたことを示す最も古い証拠も示されている。
ホラアナライオンは、さまざまな古代人の文化(例えば、ホモ・サピエンスの洞窟壁画)において目立った存在であるにもかかわらず、ネアンデルタール人との相互作用に関しては確かなことが分かっていない。
今回、Gabriele Russoらは、1985年にドイツのジークスドルフで発掘され、年代測定によって4万8000年前のものとされたホラアナライオンのほぼ完全な骨格を分析した。この遺骨は、古代の中型のホラアナライオンのものと考えられている。2本の肋骨、数本の椎骨、左大腿骨などの骨に切り傷があったため、古代人がホラアナライオンの死体を解体したことがこれまでの研究で示唆されていた。しかし今回、Russoらは、ライオンの第3肋骨の内側の一部に刺し傷があり、この刺し傷が、先端部が木製の槍の衝撃痕と一致すると考えられると述べている。この刺し傷は傾斜しており、この槍がライオンの左側の腹部に刺さり、重要な臓器を貫通して、右側の第3肋骨に到達したことを示唆している。この刺し傷の特徴は、これまでに知られているネアンデルタール人の槍によるシカの椎骨の刺し傷に類似している。このことからRussoらは、ジークスドルフで収集された骨の標本が、ネアンデルタール人が特定の目的でホラアナライオンを狩猟していたことを示す最も古い証拠だという見解を示している。
これとは別にRussoらは、2019年にドイツのアインホルンヘーレで発掘され、年代測定によって5万5000~4万5000年前のものとされたホラアナライオン3体の標本の足指と下肢の指骨と種子骨を分析した。これらの骨にも、動物の皮を剥いだときにできる傷と矛盾しない切り傷が見られた。人為的に改変された骨が存在するということは、これらの骨がホラアナライオンの毛皮の中に残されて、後にその場に遺棄されたことを示唆している。これらの切り傷の位置は、毛皮を剥ぐ作業が慎重に行われて、鉤爪が必ず毛皮の一部として保存されるようにしていたことを示唆している。Russoらは、これはネアンデルタール人がホラアナライオンの毛皮を使っていたことを示す最も古い証拠である可能性があり、毛皮は文化的目的で使用されていたのかもしれないと述べている。
以上の知見を総合すると、更新世のネアンデルタール人とホラアナライオンの相互作用を解明するための新たな手掛かりになる。
doi:10.1038/s41598-023-42764-0
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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