気候変動:パリ協定の目標達成のための炭素予算が以前の算出値より少なくなっている
Nature Climate Change
2023年10月31日
人類が現在のペースでCO2の排出を続けながら産業革命前からの全球平均気温の上昇幅を1.5℃に抑えるという目標を達成しようとすると、CO2の排出許容量が今後6年以内に尽きてしまう可能性のあることが明らかになった。このことを報告する論文が、Nature Climate Changeに掲載される。この知見は、現在のCO2排出許容量を再評価した結果に基づいており、パリ協定に定める気温上昇の目標を達成するための炭素予算が以前の算出値よりも少なくなっている可能性を示している。
残余炭素予算(RCB)は、特定の温暖化の閾値を超えないようにするためのCO2の実質の排出許容量を表しており、パリ協定に沿った脱炭素の道筋を計画する上で重要なパラメーターの1つになっている。パリ協定は、産業革命前からの温暖化を2℃未満に抑えるという目標を設定し、さらに1.5℃以下に抑える努力を継続することで、気候変動の最悪の影響を最小限に抑えようとしている。このようにRCBは重要であるにもかかわらず、RCBの算出には不確定要素の占める割合が大きい。その理由としては、他の要因、例えばCO2以外のガスを原因とする温暖化や、モデルで考慮されていないCO2排出の継続的作用などの影響がある。
今回、Robin Lambollらは、最新のデータセットと方法を用いてRCBを算出して、既存の不確定要素の一部を解明した。その結果、50%の確率で温暖化を1.5℃に抑えるためのRCBは、2023年1月時点で250ギガトン(CO2換算)となり、従来の算出値の半分程度となった。Lambollらは、現在のCO2排出量が続くと、温暖化を1.5℃に抑えるためのRCBは6年以内にゼロになってしまう可能性があると指摘した上で、50%の確率で温暖化を2℃未満に抑えるためのRCBが1200ギガトンと算出した。この算出値は、CO2排出量が2022年レベル(年間約40ギガトン)で続くと仮定した場合、66%の確率で温暖化を2℃に抑えるためのRCBの約23年分、または90%の確率で温暖化を2℃に抑えるためのRCBの約12年分に相当する。
Lambollらは、今回の知見ではさまざまな要因がRCBに及ぼす影響が明確に示されているが、こうした要因の再評価にもいくつかの不確定要素が伴うと述べている。また、同時掲載のNews & Viewsでは、Benjamin Sandersonが、「Lambollらの知見は、どんなに厳密な計算結果であっても、データの改訂や知識の深化によって修正される可能性があることを示している」と指摘している。
doi:10.1038/s41558-023-01848-5
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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