気候変動:グリーンランド北部に残る棚氷の脆弱化が広範囲に及んでいる
Nature Communications
2023年11月8日
グリーンランド北部の棚氷は急速に後退しており、1978年以降、全体積の30%以上が失われたことを明らかにした論文が、Nature Communicationsに掲載される。これらの棚氷は安定しているものと長い間考えられてきたが、2000年以降に3つの棚氷が既に完全に崩壊していた。著者らは、残っている5つの棚氷のうち、棚氷の質量減少が近くの氷河を不安定化させており、これらの氷河は海洋の温暖化に伴って後退を続け、海水準の上昇に深刻な影響を及ぼすことになるという見解を示している。
グリーンランドの氷床の氷質量の減少は、2006~2018年に観測された海水準上昇の17.3%に寄与した。グリーンランドで最後に残った浮遊棚氷は氷床の北端にあり、海洋への氷の流出を調整することで氷床を安定させている。グリーンランドの北部氷河が不安定化し始めたのは、このわずか20年間のことであり、氷河が海上に押し出されてそのまま割れずに海に浮かんでいる部分(棚氷)の一部が脆弱化し、崩壊したために、氷河の氷の減少分が増加分を上回るようになった。海水準上昇に対する棚氷の寄与をより正確に予測するためには、残っている棚氷が変化する時期とその要因だけでなく、氷河の応答を明確にすることが重要だ。しかし、これらの棚氷の進化と棚氷に影響を及ぼす数々の複雑な過程を包括的に概観した研究報告はない。
今回、Romain Millanらは、数千点の人工衛星画像と気候モデル化を用いて、グリーンランド北部の氷河と気候と海洋の相互作用を分析した。その結果、棚氷の質量減少が広範囲で大幅に増えていることが判明した。2000年以降、海洋温暖化のために、棚氷の減少が主に底部で起こっていた。Millanらはまた、氷河の後退と海洋への氷の流出が、棚氷の減少と同時に起こってきたことを明らかにした。
以上の知見は、海洋の熱強制の将来予測の下で、棚氷底部の融解速度は上昇し続けるか、高いレベルで推移し、グリーンランドの氷河の安定性に影響を及ぼす可能性があることを示唆している。またMillanらは、棚氷が完全に崩壊すれば、グリーンランドの北部氷河は海水準上昇に対する氷床の寄与を劇的に増大させる可能性があると示唆している。
doi:10.1038/s41467-023-42198-2
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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