公衆衛生:一般用医薬品の売り上げデータを利用した疾病サーベイランス
Nature Communications
2023年11月22日
イングランドにおける一般用医薬品(市販薬)の取引(20億件以上)を分析した結果、一般用医薬品の売り上げデータを用いて呼吸器疾患による死亡率の予測を改善できる可能性が明らかになった。このことを報告する論文が、Nature Communicationsに掲載される。今回の知見は、一般用医薬品の売上高が、特定の集団の健康状態を示す有用な指標となり、疾患サーベイランスを改善し、医療計画を支援できる可能性があることを示唆している。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)では、呼吸器感染症の正確な予測を作成することの重要性が浮き彫りになった。こうした予測を作成する際に課題となるのは、呼吸器感染症にかかっても症状が軽い人の多くが医師の診察を受けないために疾患の存在が医療制度において把握されない点だ。しかし、症状の軽い人々は、症状に応じて一般用医薬品を購入する可能性があるため、一般用医薬品の売り上げデータのパターンによって、測定が困難な罹患率の変化が示される可能性がある。
今回、Elizabeth Dolanらは、一般用医薬品(咳止め薬、のどの薬、鼻炎薬など)の売り上げデータを用いて、2016~2020年の呼吸器疾患(インフルエンザ、気管支炎など)による1週間の死者数を予測した。この売り上げデータは、イングランドの大通りに出店している医薬品小売業者の取引とポイントカードのデータから取得した。これらのデータは全て、店舗レベルの売上高に匿名で集計された後、この論文の著者らに提供され、著者らは基礎的自治体レベルでの売上高の影響を分析した。今回の分析では、売り上げデータと一般に用いられる呼吸器疾患の指標(社会人口統計学的データや気象データなど)を含んだ機械学習に基づくモデルと売り上げデータを含まないモデルについて、その精度を比較した。その結果、売り上げデータを含めることで、呼吸器疾患による死者数の予測を改善して、予測精度を高めることができ、特に死者数の多い期間に関する改善が顕著なことが示唆された。
売り上げデータをリアルタイム疾患サーベイランスシステムに組み込むことの有用性と実行可能性を評価するためには、さらなる研究が必要となる。また、こうした予測精度の評価に加えて、公衆衛生当局が売り上げデータのような商用データを入手できるようにすることの倫理的影響を評価する必要があると考えられる。
doi:10.1038/s41467-023-42776-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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