社会科学:リモートコラボレーションでは画期的な発見ができにくい
Nature
2023年11月30日
科学者間のリモートコラボレーションが盛んになってきているが、リモートコラボレーションは、同じ場所で対面して共同研究を行うチームよりも画期的な発見(進歩のための新しい道を開くような破壊的な発見)が少ないことと関連しているという研究結果を報告する論文が、今週、Natureに掲載される。この知見は、2000万件の研究論文と400万件の特許出願の分析によって得られた。
オンラインコラボレーションのために利用できる技術が増えてきたため、研究者は、各地に分散しているチームとつながり、知識や専門技能を集約することができる。ところが、最近示された証拠から、共同研究の機会が増えているにもかかわらず、科学や技術の現状を打破するような発想を得ること(既存の文献に基づいて研究成果を生み出すのではなく)が難しくなっていることが示唆された。
今回、Yiling Lin、Carl Frey、Linghei Wuらは、オンサイトでの共同研究(同一都市の研究者によるチーム)からリモートコラボレーション(共同研究者が2つ以上の都市に分散している)への切り替えが、研究チームの成果に及ぼす影響を評価した。今回の研究では、全世界で1960~2020年に発表された2000万件の研究論文と、1976~2020年に提出された400万件の特許出願の分析が行われた。Linらが特に注目したのが著者と寄稿者の所属と地理的範囲で、その成果は、どれだけ破壊的であったかという基準で測定された。その結果、全ての研究分野とチームの規模において、リモートコラボレーションのチームはオンサイトでの共同研究チームよりも画期的な発見が少ないという可能性が示された。ただし、リモートコラボレーションには、さまざまな分野の専門家を結集してデータ解析の向上に役立てられるなど、いくつかの利点がある。
リモートコラボレーションでは、1カ所に集まって研究を行う場合よりも多くの集合知が得られる可能性があるが、知識の効率的な統合がしにくいのかもしれない。今回の研究では、リモートコラボレーションで互いに離れた場所にいる科学者は、1カ所に集まって研究を行う科学者よりも新しい研究アイデアを生み出すなどの概念的なタスクを行う可能性が低いことも明らかになった。Lin、Frey、Wuらは、リモートコラボレーションが盛んになるという傾向が生じると、破壊的な発見を犠牲にして、漸進的イノベーションを優先させる可能性が高くなると結論付けている。
doi:10.1038/s41586-023-06767-1
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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