神経科学:脳深部刺激によって、慢性脳損傷患者の認知機能が一部回復する可能性がある
Nature Medicine
2023年12月5日
視床の重要な脳回路を脳深部刺激で刺激すると、外傷性脳損傷(TBI)が原因で長期的に認知障害を患っている患者の認知機能が改善される可能性があることが報告された。この知見は、小規模な臨床試験データに基づいたものだが、この治療が実行可能で安全であることを示した。
TBIは、身体、認知、情動、行動の長期的な機能障害の原因となり、多くの場合、持続的な認知機能障害がもたらされ、患者はそれまでの社会的な活動レベルに戻ることができなくなる。しかし現在のところ、外傷が原因で生じた注意機能、実行機能、作業記憶の障害や情報処理速度の低下といった機能障害を軽減する有効な治療法はない。これまでの研究では、視床の重要な脳回路の活性の喪失が、認知機能の損傷に関連する可能性が示唆されている。
Nicholas Schiffらは、TBI関連障害が慢性期にある患者に対して小規模な臨床試験を行い、脳深部刺激が実行可能で安全かどうか、認知機能を回復できるかどうかを評価した。被験者となったのは、中程度から重度のTBIによって持続的な神経心理学的障害と機能障害に至った6人の成人である。被験者(男性4人、女性2人)は年齢が22~60歳で、外傷後3~18年が経過していた。そのうち1人の被験者は、後にプロトコル不遵守のために臨床試験を中止した。Schiffらは、新しい神経画像技術を用いて、視床の特定の領域で活性が損なわれた神経回路を予測し、そこに電極を外科的に埋め込んだ。そして残る5人の被験者において、これらの視床の回路に脳深部刺激を実施したところ、重い有害反応は全く見られず、手術前に事前指定しておいた認知機能テストにおいて、処理スピードの改善がベースライン(手術前に測定した注意機能、速度と精神的柔軟性、空間的構成、視覚的追跡、想起、認識)よりも15~52%上昇した。
Schiffらは、これらの刺激は、慢性期にある認知機能障害患者の認知機能が脳深部刺激によって改善する可能性があることを示す予備的な証拠となると述べている。ただし、この治療法の有効性を確認するには、さらに大規模な臨床試験によって調べていく必要があるとも述べている。
doi:10.1038/s41591-023-02638-4
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