神経科学:パーキンソン病での歩行障害を軽減する神経補綴装置
Nature Medicine
2023年11月7日
慢性パーキンソン病で重度の運動障害のある患者の歩行能力とバランス能力が、埋め込み型の神経補綴装置と標的を定めた脊髄硬膜外刺激によって改善されたことが報告された。この知見によって、パーキンソン病患者での運動障害の治療に神経補綴装置が使える可能性が明らかになった。
パーキンソン病が進行した患者のほぼ90%は、歩行障害やバランス障害、すくみ足症状などの運動機能障害を経験する。こういった障害は生活の質を低下させ、関連疾患を悪化させるが、現在使われている治療法はこれらには効果がない。腰仙髄への標的化脊髄硬膜外刺激(EES)は、自発運動を制御するニューロンの活性を調節するもので、脊髄損傷が原因の麻痺がある患者の起立機能や歩行機能を回復させることが最近明らかにされている。
G Courtineらは、パーキンソン病患者の破壊された下肢ニューロンの本来の活性を歩行中に回復させるために、EESをベースとする神経補綴装置を開発した。著者らは、これを非ヒト霊長類モデルで十分に検証してから、この方法の初めてのヒト臨床試験を、パーキンソン病歴が30年であり、薬物療法と脳深部刺激治療を受けているのにもかかわらず重度の運動機能障害のある62歳の男性で開始した。まず、この患者でEESの標的とすべき脊髄領域の解剖学的地図を作製し、これに合わせて神経補綴装置を外科手術により埋め込んだ。次に、被験者の装着した無線センサーを用いて運動意図を感知し、EESによって下肢ニューロンを活性化して自然な歩行運動を生じさせた。この研究結果によって、開発されたこの神経補綴装置が被験者の運動障害とバランス障害を改善することが明らかになり、この被験者は生活の質が大幅に改善されたことを報告している(被験者は現在、この神経補綴装置をほぼ2年間にわたって毎日8時間程度使用し続けている)。
この予備的試験の結果は、標的化EESがパーキンソン病患者に広く見られる運動障害の治療選択肢になり得ることを示唆している。しかし、これは1人の被験者で行われた概念証明研究にすぎず、この方法の有効性を実証するには、大規模な臨床試験をさらに行って研究を続ける必要がある。
doi:10.1038/s41591-023-02584-1
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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