生態学:気候の温暖化によって地中海のアオウミガメの営巣範囲が拡大する
Scientific Reports
2023年12月8日
全球的な気温上昇が地中海のアオウミガメの営巣範囲の拡大につながる可能性を明らかにしたモデル化研究について報告する論文が、Scientific Reportsに掲載される。最悪の気候シナリオの下で、60パーセントポイントを超える営巣範囲の拡大が生じ、現在の営巣地域から西方に広がって、北アフリカ、イタリア、ギリシャの海岸線のかなりの部分まで含まれる可能性があるという。
人為起源の気候変動は、全球的な海面水温の上昇をもたらし、一部の海洋生物に深刻な影響を及ぼしている。ウミガメは、仔の性別が孵卵温度に依存しているため、特に影響を受けやすい可能性がある。これまでの研究では、世界中のウミガメのいくつかの個体群に対する気候変動の影響が調べられてきたが、地中海のアオウミガメ(Chelonia mydas)の個体群に関する研究はほとんどなかった。
今回、Chiara Mancinoらは、地中海沿岸の特定の地点がアオウミガメの営巣地として適しているかどうかを予測するためのモデルを開発した。Mancinoらはまず、確認済みの営巣地(178カ所)に対する評価を行って、このモデルの予測力を調べた。これらの営巣地は1982~2019年に記録されたもので、主に東地中海のトルコとキプロスに限定されている。この評価で、このモデルの予測力が非常に高く、また、特定の場所が営巣地に適しているかどうかに対して最も大きく影響するのが海面水温、海水の塩分濃度、住民の人口密度であることが分かった。
次に、Mancinoらは、4つの異なる温室効果ガス排出シナリオが2100年のアオウミガメの営巣範囲にどのように影響するかをモデル化した。その結果、気候シナリオの内容が悪くなることと地中海におけるアオウミガメの営巣範囲が拡大することとの関連性が明らかになった。そして、モデル化された気候シナリオの中で最も悪い内容の場合に、営巣範囲が62.4パーセントポイント拡大し、北アフリカの海岸線からアルジェリアまで、イタリアとギリシャのかなりの部分、南アドリア海が含まれるようになった。しかし、Mancinoらは、人口密度が非常に高い中部地中海地方と西地中海地方でアオウミガメの営巣範囲が拡大すると、アオウミガメが人間や都市化された浜辺と接触する機会が増え、営巣の成功に悪影響を及ぼす可能性があると警告している。今後の研究では、こうした影響を軽減する方法を調べる必要がある。
doi:10.1038/s41598-023-46958-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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