幹細胞:ヒトの胚発生に関与する細胞の誘導
Nature
2023年12月5日
ナイーブ型のヒト多能性幹細胞(hPS細胞)から原内胚葉(ハイポブラスト:胚発生を支援する細胞集団)を誘導し、この原内胚葉を用いて、子宮着床後に形成される構造体を作製する方法を示した論文が、Natureに掲載される。このモデルは、着床後の胚発生の初期段階によく似ており、着床に伴う数々の過程に関する知見をもたらす。
ヒト胚の研究は倫理的・法的制約を受けるため、ヒト胚が子宮に着床する直前と直後に起こる過程に関する知識は限られている。これに関し、ヒト幹細胞を用いてモデルが作製され、ヒト胚発生の初期段階を研究する新たな機会が生まれている。
今回、京都大学iPS細胞研究所の髙島康弘(たかしま・やすひろ)准教授らは、ナイーブ型hPS細胞から原内胚葉(胚発生に不可欠な胚外組織へ発生することが知られた細胞)を誘導する方法を確立した。原内胚葉細胞は、ナイーブ型hPS細胞と自発的に集合し、3次元構造(バイラミノイド)を形成する。バイラミノイドは、2層の細胞からなり、初期羊膜腔(液体で満たされた構造で、成長する胎児を衝撃から守るようになる)に類似した空洞を形成する。このように、このモデルは、着床前後のヒト胚の発生段階によく似ている。また、髙島らは、ナイーブ型hPS細胞から着床後の構造体が形成される過程の誘導に、別のタイプの胚外細胞である栄養芽細胞(トロフォブラスト)が役立っていることも明らかにした。
髙島らは、今回の研究で、着床前の原内胚葉様細胞の誘導が初めてロバストかつ再現性のある形で実証されたと主張している。また、この方法によって作製された構造体はヒト胚で見られる構造といくつかの点で異なるが、それでも異なった細胞系譜間の相互作用の観察は可能であると述べている。そして、髙島らは、今回の研究が、他のヒト幹細胞に基づいた胚モデルと共に、生物医学における新たな科学的発見を生み出す可能性があると結論付けている。
doi:10.1038/s41586-023-06871-2
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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