医学:吸入型COVID-19ワクチンの開発
Nature
2023年12月14日
吸入型の重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)ワクチンの開発について報告する論文が、Natureに掲載される。このワクチンをマウス、ハムスター、非ヒト霊長類で検証したところ、このワクチンによって誘発される免疫応答がワクチン接種前と比べて増強しており、SARS-CoV-2感染に対する防御効果も強力であることが判明し、注射用ワクチンに代わる有望な方法であることが明らかになった。
2020年初頭に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)が宣言されて以来、COVID-19ワクチンの開発と承認のために数々の取り組みがなされてきた。承認にこぎ着けたワクチン候補の大部分は、筋肉注射によって体内に送達され、免疫グロブリンG(IgG)抗体の産生を誘導する。これらのワクチンは、重症化の予防に有効であることが分かったが、感染予防効果は十分でない。感染予防をするためには、肺や気道の粘膜組織内で免疫を誘導する必要があるためだ。さらに、これらのワクチンの多くは液体であるため、安定な状態を保つために低温流通体系を必要とし、コスト増につながっている。
今回、Guanghui Maらは、乾燥粉末のエーロゾルによる吸入型SARS-CoV-2ワクチンを開発した。このワクチンでは、肺の奥深くに入って沈着する超小型のマイクロカプセルの中に、CTBと呼ばれる非毒性細菌タンパク質(SARS-CoV-2受容体結合ドメイン抗原を提示するように修飾されている)が封入されている。さらに、このワクチンの「モザイク型」が作製された。このモザイク型ワクチンは、SARS-CoV-2の祖先型とオミクロン変異株の抗原を同時に提示するワクチンであり、2種以上のウイルス株と戦えるかが検証された。
このワクチン候補物質は、単回投与すると肺の粘膜組織へ効率的に送達されて、抗原が持続的に放出され、抗原提示細胞に取り込まれることが確認された。また、マウス、ハムスター、非ヒト霊長類において、IgGと免疫グロブリンA(IgA)の産生の長期的な増加が誘導され、SARS-CoV-2感染に対する効果的な防御効果が達成された。モザイク型ワクチンは、血清試料と粘液試料の両方において、この抗体応答の幅の拡大と関連していることが確認され、同時流行するウイルス株とオミクロン変異株に有効に対処できることが示唆された。さらに、粉末ワクチンは、1カ月の室温貯蔵後も安定なことが示された。このため、ワクチンを配布する際の保管費用と輸送費用を削減できる可能性があり、その結果、このワクチンの利便性が高まる。
この吸入型ワクチンは、肺細胞を直接標的として、従来の吸入型ワクチンよりもロバストな免疫応答を誘導することにより、COVID-19の予防法として有望なことを示している。Maらは、このエーロゾル送達システムには、COVID-19とその他の呼吸器疾患の両方と戦うツールとしての可能性があると結論付けている。
doi:10.1038/s41586-023-06809-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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