疫学:精密疫学の可能性に光を当てた英国NHSのCOVID-19接触追跡アプリ
Nature
2023年12月21日
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者と一緒に過ごした時間の長さが、その後のCOVID-19発症に関する単一の予測変数として最も重要であることを明らかにした研究について報告する論文が、今週、Natureに掲載される。英国の国民保健サービス(NHS)のCOVID-19アプリによって通知された接触者700万人を対象とした今回の大規模研究によって、接触追跡アプリが精密疫学の充実につながる可能性が示された。
COVID-19のパンデミック(世界的大流行)の際に、NHSのCOVID-19アプリは、イングランドとウェールズにおいて、Bluetoothの信号強度を用いて、近接するスマートフォン間の距離と近接している時間の測定値を記録し、この情報を使って、COVID-19の確定症例者と接触したことを該当者に通知した。今回、Luca Ferretti、Christophe Fraserらは、2021年4月~2022年2月の期間中に重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染が確認された人と接触したと通知された700万人から収集したデータを解析した。その中には、通知後に検査陽性になったことが報告された24万人が含まれる。解析の結果、それぞれの接触について計算されたアプリのリスクスコアは、実際の感染リスクとの相関性が高いことが分かった。感染リスクに最も大きな影響を及ぼしたのは接触時間だった。通知を受けた接触の半数は一過性の接触(30分未満)で、SARS-CoV-2の感染例は非常に少なかった。SARS-CoV-2への曝露は短時間のものがほとんどだったが、感染例の大部分は、1時間から数日間に及ぶウイルスへの曝露が原因となっていた。家庭内での接触は、接触全体のわずか6%だったが、感染例の40%を占めていた。
今回の結果は、今後のCOVID-19アウトブレイク(集団発生)のモデル化とCOVID-19アウトブレイクに関連した公衆衛生政策に役立つ情報の提供のいずれにも直接関わっている。例えば、確定症例者との接触距離が遠くても接触時間が長い場合は、確定症例者の近くで短時間接触した場合と同程度の感染リスクになることが今回の研究で判明したため、今後のフィジカルディスタンシング(物理的な距離の確保)戦略では、空間だけでなく時間の重要性も考慮することが望ましい。デジタル接触追跡と今回の研究で得られた知見は、精密疫学に向けた一歩にもなった。精密疫学では、対象者一人一人のリスクの測定が大規模に実施されて、政策決定者が感染症アウトブレイクへの対応を動的に調整する際に役立てられる。
doi:10.1038/s41586-023-06952-2
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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