古生物学:広大な平原が初期ヒト科の言語発達を助長したかもしれない
Scientific Reports
2023年12月22日
現生オランウータンの鳴き声の研究から、中新世に古代のヒト科の鳴き声が母音ベースの鳴き声から子音ベースの鳴き声に切り替わったことには、生息環境が密林から広大な平原に変わったことによる進化圧の影響があったという考えが示された。このことを報告する論文が、Scientific Reportsに掲載される。今回の知見は、初期ヒト科のコミュニケーションが進化の過程でどのように発達したかについての洞察をもたらす。
中新世の中期から後期(1600万~530万年前)に気候の変化が生じて、アフリカでは森林が広大な平原に置き換わり、主に樹上で生活していた古代のヒト科が地上での生活に移行した。このような景観の変化がヒト科の発声にどのような影響を与えたかについては、化石記録の中に発声に必要な軟組織が保存されていないため、解明されていない。オランウータンは、口腔を通過する空気によって生じる無声子音のような鳴き声と、声帯の振動によって生じる有声母音のような鳴き声の両方を発し、それらを複雑につなぎ合わせることができる。オランウータンは、現存する唯一の樹上性の大型類人猿として、この樹上生活から地上生活への移行を調べるための動物の理想的な候補だ。
今回、Charlotte Gannon、Russell Hill、Adriano Lameiraは、南アフリカ共和国のラジュマにあるオランウータンのサバンナ生息地で、オランウータンの録音した鳴き声がどのくらいよく聞き取れるかを調べた。オランウータンの鳴き声は特に複雑で、音節に類似した鳴き声もある。著者らは、スマトラ種とボルネオ種のオランウータン集団に属する20個体の487例の鳴き声を再生した。これらの鳴き声には、子音様のkiss-squeak(突き出した唇の間から息を吸い、ちゅうちゅうと音を立て)と母音様のgrumph(ぶーぶー鳴く)の両方が含まれていた。そして、鳴き声を再生する地点から25メートル刻みで最長400メートル離れた地点までの各地点で鳴き声を再録音して、それぞれの地点で鳴き声がどのくらいよく聞こえるかを調べた。
その結果、125メートル以上離れた地点では、母音ベースの鳴き声は、子音ベースの鳴き声よりも可聴性が有意に低くなり、子音ベースの鳴き声は、250メートル以上離れると可聴性の低下が緩やかになった。さらに、400メートル離れた地点で聞き取れた母音ベースの鳴き声は全体の20%未満であったのに対し、子音ベースの鳴き声は約80%だった。全体として、以上の結果は、広大な土地では子音ベースの鳴き声の方が非常に聞き取りやすいことを示している。著者らは、現代のヒトの言語において子音が重要であることから、広大な平原へ移動したことがヒト科の音声コミュニケーションの発達に重要な役割を果たした可能性があるという考えを示している。
doi:10.1038/s41598-023-48165-7
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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