微生物学:脳内の糖が抗真菌薬に対する抵抗性を増加させる可能性がある
Nature Microbiology
2024年1月16日
脳内に存在するグルコースの量が、病原性真菌Cryptococcus neoformansの抗真菌薬抵抗性の発生に寄与している可能性があることを報告する論文が、Nature Microbiologyに掲載される。これらの知見は、マウスとヒトの脳脊髄液から得られたデータに基づいたもので、真菌性髄膜炎の治療に関わってくる可能性がある。
真菌は、抗真菌薬(真菌による疾患の治療に用いられる)に対する抵抗性を持つと、抗真菌薬投与では死なずに生き残ることができる。しかし、宿主由来の因子が抵抗性の発生に寄与しているかどうかは不明で、このことは真菌性疾患の治療戦略にも影響を及ぼす可能性がある。C. neoformansは、ヒトの脳に感染する真菌で、真菌性髄膜炎の主な原因菌であり、これによる死者は年間約18万人に上る。現在、C. neoformansの治療に利用できる抗真菌薬は、アンホテリシンBだけである。
今回、Linqi Wangらは、ハイスループットスクリーニングを行って、マウスの脳組織とヒトの脳脊髄液を調べ、何百種もの代謝産物がC. neoformansとアンホテリシンBの相互作用に及ぼす効果を検証した。その結果、脳内に存在するグルコースが、C. neoformansのグルコース抑制調節因子タンパク質Mig1を介して、抗真菌薬抵抗性を発生させることを明らかにした。マウスでは、Mig1が、真菌の細胞膜成分の1つでアンホテリシンBの標的であるエルゴステロールの合成を阻害し、やはり真菌の細胞膜成分の1つであるイノシトールホスホリルセラミドの生産を促進する。このイノシトールホスホリルセラミドは、エルゴステロールを巡ってアンホテリシンBと競合し、その有効性を限定する。Wangらはまた、イノシトールホスホリルセラミドの阻害剤をアンホテリシンBと共に用いることで、マウスのクリプトコッカス髄膜炎に対する治療効果が改善することを明らかにした。
これらの知見によって、宿主由来の代謝産物によって抗真菌薬抵抗性が誘発される可能性があることが示された。Wangらは、この研究は真菌性疾患に対する効果的な治療法の開発に役立つだろうと結論付けている。
doi:10.1038/s41564-023-01561-1
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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