免疫学:ヘビ毒の毒性を増強してしまう可能性が判明した治療用抗体
Nature Communications
2024年1月17日
ヘビ咬傷毒を中和するために使用される可能性がある治療用抗体が、実際には毒素の有害な影響を増強するかもしれないことが、マウスモデルを用いた研究で示唆された。このことを報告する論文が、Nature Communicationsに掲載される。この知見は、クサリヘビ科マムシ亜科の毒ヘビであるテルシオペロ(Bothrops asper)の毒素を中和するために使用できる可能性のあることが室内実験によって明らかになった抗体に、リスクがあるかもしれないことを明らかにしている。
毎年、世界中で270万人がヘビに咬まれており、毒ヘビの咬傷が原因で数十万人が命を落とし、あるいは回復不能の障害を負っている。ヘビ咬傷を治療するためのより安全で効果的な方法が、全世界で緊急に必要とされている。動物由来の血清を用いた現在の抗毒素療法は、有効性に限界があり、製造コストが高く、有害な免疫反応を引き起こす場合がある。そのため研究者は、ヒト抗体を使った組換え抗毒素の開発を追求している。これまでの研究で、複数の抗体医薬候補が特定され、その特徴の分析が行われてきた。これらの抗体候補は、ヘビ咬傷による毒物注入の前臨床動物モデルを使った研究で有望な結果を示している。
テルシオペロの毒液にはミオトキシンIIという毒素が含まれており、この物質は、筋組織の破壊を引き起こし、長期の身体障害や死に至ることもある。今回、Andreas Laustsen、Bruno Lomonteらは、室内実験でミオトキシンIIを中和する抗体候補を特定した。ところが、その有効性の評価をヘビ毒注入のマウスモデルを用いて行ったところ、YTE変異を有するIgG抗体が、実際にはテルシオペロの毒素を中和するのではなく、毒素の効果を増強することが明らかになった。今回の知見は、こうした状況において見られる抗体増強疾患の初めての実証であり、抗毒素候補の前臨床試験を徹底的に実施することの重要性を強く示している。
著者らは、予期せぬ健康被害を避けるために抗体設計と試験プロトコルを慎重に検討する必要があると強調している。これらの治療用抗体を最適化し、臨床現場での安全性と有効性を確かなものとするためには、さらなる研究が必要とされる。この有害な作用が、この特定の抗体や毒素に特有のものなのか、それとももっと広範囲に起こるものなのか、そしてこれがヒトでも見られるのかについては、まだ明らかになっていない。
doi:10.1038/s41467-023-42624-5
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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