気候変動:北極の状況に関してロシアの観測データを排除すると、既に生じている偏りが増大する
Nature Climate Change
2024年1月23日
北極域の状況をマッピングするために収集されているデータからロシアの観測所のデータを排除すると、データの偏りが増大することを示唆する論文が、Nature Climate Changeに掲載される。この知見は、北極域における現在と将来の変化を定量化することがますます困難になっていることを浮き彫りにしている。
北極域の温暖化は全球平均の約2~4倍のスピードで進行しており、その影響が地球規模に及ぶ可能性がある。北極の変化を理解するには、地上の観測基地で測定されたデータに大きく依存する。しかし、これに関する国際研究は、ロシアのウクライナ侵攻を受けて、地理的に最大の北極域国家であるロシア抜きで続けられている。
今回、Efrén López-Blancoらは、グリーンランド氷床を除く北緯59度以北の地域に設置されたINTERACT(北極域の観測基地の国際ネットワーク)の観測点から得たモデルデータを用いて、ロシア国内の観測点のデータを排除することが北極の変化に関する認識に及ぼす影響可能性を定量化した。そして、北極の環境条件(年平均気温、総降水量、積雪深、土壌水分、植生バイオマス、土壌炭素、純一次生産、従属栄養呼吸)が、ロシアの観測点からの情報がある場合とない場合で、観測データにどの程度適切に代表されているかを評価した。
その結果、ロシア国内の全観測点からのデータをデータセットに含めた場合でも、一部の北極生態系の変数に関する観測点ネットワークのモデルデータに偏りが生じており、北極域全体の生態系の状況を十分に代表していないことが示された。López-Blancoらは、この偏りの原因が観測点の設置場所にある可能性があり、北極域の典型的な観測点は、北極域の中でも温暖湿潤で、雪塊が深く、バイオマスが少ない地域に設置されていると指摘している。ところが、ロシア国内の観測点が北極観測基地のネットワークから排除されると、この偏りはさらに増大した。ロシアの観測データを排除すると、例えば、シベリアの広大なタイガ(針葉樹林帯)がデータセットに代表されなくなった。一方、一部の変数(降水量や植生バイオマスなど)に関するデータの偏りは、21世紀末までに気候変動によって生じると予測されている変化と同程度だった。
López-Blancoらは、今回の知見が、北極の状況を追跡するために用いられる情報に既に欠落が生じていることを示しており、ロシアによるウクライナ侵攻の結果、北極の変化を追跡・予測する能力がさらに低下したことを浮き彫りにしていると述べている。
doi:10.1038/s41558-023-01903-1
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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