遺伝学:アラビカコーヒーノキの遺伝的来歴を調べる
Nature Communications
2024年1月24日
世界のコーヒー生産量の約60%を支えるアラビカコーヒーノキのゲノムアセンブリが改善され、アラビカ種の独特の風味と病原体に対する抵抗性に寄与している可能性のある遺伝的多様性のいくつかの原因が明らかになった。このことを報告する論文が、Nature Communicationsに掲載される。
市販のコーヒーは、主にロブスタコーヒーノキ(Coffea canephora)とアラビカコーヒーノキ(Coffea arabica)を原料として生産されており、それぞれロブスタコーヒーとアラビカコーヒーとして知られている。アラビカコーヒーノキは、現在のロブスタコーヒーノキと他の近縁種Coffea eugeniodesのそれぞれの祖先の間の交雑に由来する。この交雑の結果、アラビカコーヒーの風味と巨大で複雑なゲノムが得られ、これが品種改良や遺伝学的研究において難題を生み出している。現在、アラビカコーヒーノキについては、いくつかの部分ゲノムアセンブリが利用できるが、その遺伝的多様性を生み出す機構は解明されていない。
今回、Michele Morgante、Gabriele Di Gasperoらは、最新の塩基配列決定技術を用いて、これまでより完全なアラビカコーヒーノキのゲノムアセンブリを作成し、その染色体の詳細な構造解析が可能になった。これまで調べることのできなかった領域(例えば、セントロメア周辺領域)を含むゲノム解析が可能になり、2つの親種(ロブスタコーヒーノキとC. eugeniodes)に由来するゲノムの構造、機能、進化に違いがあることが分かった。特に、カフェイン生合成に関与する遺伝子に違いが見られた。また、さまざまなコーヒーノキ属種から収集した試料(174点)のゲノムを解析し、アラビカコーヒーノキ種内の遺伝的多様性が非常に低いことが分かった。アラビカコーヒーノキの栽培種の一部では、特定のゲノム領域で多様性が高いことが判明し、この多様性をもたらす2つの要因が、染色体異常と、ロブスタ種とアラビカ種の雑種(ティモール・ハイブリッド)由来の染色体断片であることが示された。ティモール・ハイブリッドは、ロブスタコーヒーの病害抵抗性とアラビカコーヒーの独特の風味を兼ね備えた多くの現栽培種の親系統となった。
著者らは、アラビカコーヒーノキの遺伝的多様性はアラビカコーヒーの商業的成功にとって極めて重要であり、今回の知見が、病害抵抗性や新たな風味プロファイルといった望ましい形質を有する新しいコーヒー品種の開発に役立つ可能性があるという見解を示している。
doi:10.1038/s41467-023-44449-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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