考古学:個人が身につける装飾品から古代のヨーロッパ文化を探る
Nature Human Behaviour
2024年1月30日
グラベット文化期(3万4000~2万4000年前)の個人が身に付ける装飾品の解析から、ヨーロッパには9つの異なる文化集団が存在し、そのうち3つは、遺伝的データが限られているか、そもそも得られていない集団であったことを示唆する論文が、Nature Human Behaviourに掲載される。今回の知見から、これまで考えられていたよりも詳細な文化の地理的分布が明らかとなった。
ビーズは個人の装飾品として、また文化的なアイデンティティーの印として用いられることが多い。考古学的な記録から、約4万5000年前のユーラシア大陸では、さまざまな材料(象牙、骨、枝角、黒玉、琥珀など)で作られたビーズの多様性が増大したことが分かっている。しかし、そうした多様性が、異なる文化集団の存在を意味するのか、あるいは単なる地理的な隔たりの結果であるのかは、議論が続いていた。
今回、Jack Bakerらは、ヨーロッパの西部、中央部、東部、イベリア半島、地中海地方にある112の遺跡から3万4000~2万4000年前のものとされる134種類の個人の装飾品のデータを集めて解析を行った。装飾品は、貝殻、歯(クマ、ウマ、ウサギの歯を含む)、琥珀などの原材料から作られていた。Bakerらは、ヨーロッパ全域において個人の装飾品に一貫した違いがあることを見いだし、9つの異なるクラスターを特定した。Bakerらは、これらのクラスターは文化に起因する境界線によって隔てられた9つの異なる集団であると示唆している。またBakerらは、空間的・文化的な境界がビーズの多様性に及ぼし得る影響をモデル化した。その結果、物理的な距離は重要であるものの、距離がビーズの選択を左右する唯一の要因ではおそらくないことが判明した。Bakerらは、透過性の高い文化的境界線や、さまざまな社会的立場にある人々の異なる慣行もまた、ある程度の役割を果たしていた可能性があると考えている。さらに、これらのクラスターの大半が、最近の古代ゲノミクスで得られた知見に対応することも明らかとなった。Bakerらは、現在までに遺伝学的データが得られていないヨーロッパ東部の文化集団1つと、1人の遺伝学的データしか得られていないイベリア半島の文化集団2つを見いだしている。
Bakerらは、今回の結果から、文化的研究と生物学的研究を統合することで、ヨーロッパにおける初期人類の理解に役立つことが実証されたと強調している。
doi:10.1038/s41562-023-01803-6
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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