生態学:ラッコの再定着が塩性湿地の浸食に対する歯止めになる
Nature
2024年2月1日
米国カリフォルニア州の塩性湿地でラッコの個体数が回復すると、穴居性のカニ(ラッコの餌となる生物の1つ)によって引き起こされる塩性湿地の浸食が減ることを報告する論文が、Natureに掲載される。この知見は、少なくなっている頂点捕食者の個体数を回復させることで、沿岸生態系の環境衰退に歯止めをかけられる可能性を示している。
塩性湿地生態系は、温帯沿岸地域の野生生物と人間の両方にとって重要な居住環境だが、生息地の改変、海水準の上昇、外来種の侵入に対しては極めて脆弱だ。こうした居住環境に固有の捕食者の個体数が乱獲によって減少すると、カニやカタツムリなどの生物種が増加して、海岸線の浸食や沈下が起こる可能性がある。頂点捕食者の個体数を回復させることが、これらの生態系の劣化を軽減する上で役立つ可能性があると示唆されているが、これに関して決定的な証明はなされていない。
今回、Brent Hughesらは、30年間(1985~2018年)にわたってエルクホーン・スラウ(米国カリフォルニア州中部の沿岸地帯)でラッコの個体数と塩性湿地の端部の側方浸食の監視観測を行い、浸食の低減がラッコの個体数密度の上昇と相関していることを明らかにした。Hughesらは、この関係をさらに調べるため、ラッコを3年間にわたって塩性湿地のクリーク(5カ所)の端部から隔離して、この影響を、ラッコの個体数、(ラッコによる)イワガニの消費量、塩性湿地の端部の浸食の分析によって測定した。その結果、ラッコがイワガニの個体数を抑制することを介して、ラッコの存在状況と塩性湿地端部の強度およびレジリエンスの向上が結び付くことが示された。また、ラッコの定着前(2009~2012年)と定着後(2015~2017年)の塩性湿地端部を比較する13地域でのクリーク調査から、ラッコの個体数密度が高いクリークでは、ラッコの個体数密度が低い地域よりも側方浸食速度が69%低いことが判明した。これらの知見は、空間分析によって裏付けられた。この分析によれば、ラッコの個体数密度が最も高いクリークでは、ラッコの密度が最も低いクリークよりも、イワガニの個体数が約67%少なかった。
以上の結果は、頂点捕食者を回復させることが、脆弱な沿岸生態系にさらなるプラスの効果をもたらし、こうした生態系が人間活動に耐えるための能力を高める可能性があるとする考えを裏付けている。
doi:10.1038/s41586-023-06959-9
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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