医学研究:タンパク質の大量摂取の影響を調べる
Nature Metabolism
2024年2月20日
高タンパク食とその結果として起こるロイシン濃度の上昇が、マウスのアテローム性動脈硬化の要因になる可能性があることを示唆する論文が、Nature Metabolismに掲載される。この報告には、過剰なタンパク質摂取の効果をヒトで調べた実験のデータも含まれており、タンパク質の推奨摂取量を上回った場合に生じる可能性のある副作用についての洞察が得られる。
タンパク質は必須の主要栄養素だが、西洋社会の人々は、平均して1日当たりの推奨摂取許容量の約3分の1量を過剰に摂取している。これまでに動物モデルで行われた研究では、過剰なタンパク質とアテローム性動脈硬化(動脈壁の肥厚と硬化)の関連が示され、観察研究では、過剰なタンパク質と心血管有害事象の関連が明らかになっている。しかし、これらの関連性の機序を詳しく調べる研究はあまりなされていない。
今回、Babak Razaniらは、ヒトでの対照実験として、ボディマス指数(BMI)で過体重に分類される男女の被験者23人に、段階的に異なる量のタンパク質を摂取させる実験を2回行った。最初の実験の被験者は14人で、500キロカロリーの流動食を2回(1回目はタンパク質量が非常に高く、2回目はタンパク質量が非常に少ない)摂取させた。2つ目の実験の被験者は9人で、450キロカロリーの標準食を2回(タンパク質16グラムまたは25グラムのどちらか)摂取させた。どちらの実験でも、摂取の前と1時間後と3時間後に血液試料を採取した。
これらの実験に基づいて、Razaniらは、1食当たり25グラムを超えるタンパク質摂取がアミノ酸ロイシンの血中濃度を上昇させ、それが単球とマクロファージ(どちらも免疫系を構成する細胞)に影響を及ぼす可能性があると示唆している。細胞を用いたその後の実験では、ロイシンが、これらの細胞のmTOR(増殖、オートファジー、アポトーシスなど、細胞のさまざまな機能を調節する)を活性化できる主要なアミノ酸であることが明らかになった。また、マウスでの経過観察実験では、3通りの同等な食餌(タンパク質量が多い、中程度、少ない)を与えたところ、食餌エネルギー必要量を22%超えるタンパク質の摂取で血中ロイシン濃度が上昇し、免疫細胞に影響し、mTORが活性化されることが分かった。さらに、雄マウスでは、高タンパク食を与えなくても、ロイシン濃度の増加だけでアテローム性動脈硬化が促進されることが明らかになった。Razaniらは、これらの知見は、高タンパク質食が心血管事象に与える作用を理解する上で大きな意味を持つ可能性があると述べている。ただし結論として、タンパク質摂取量の違いがもたらす影響を全て評価するには、さらなる研究が必要だとも述べている。
doi:10.1038/s42255-024-00984-2
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
注目のハイライト
-
化学:アルゴリズムは、ウイスキーの最も強い香りと原産地を嗅ぎ分けることができるCommunications Chemistry
-
天文学:月の年齢はより古いNature
-
気候変動:南極の海氷減少が嵐の発生を促すNature
-
天文学:天の川銀河の超大質量ブラックホールの近くに連星系を発見Nature Communications
-
惑星科学:土星の環が若々しい外観を保っている理由Nature Geoscience
-
惑星科学:木星の衛星イオに浅いマグマの海はないNature