持続可能性:もっと環境に優しい方法でデニムを青く染める
Nature Communications
2024年2月28日
ブルーデニムの生産における環境と社会への影響を減らせるという複数の新しい方法について報告する論文が、Nature Communicationsに掲載される。著者らは、これらの方法を使えば、少しのコスト増で、デニムを青く染色する工程が環境に及ぼす影響を最大92%低減し、デニム工場の労働者が有害な化学物質にさらされないようにできる可能性があると示唆している。
10億ドル規模の産業であるブルーデニムの生産に現在使われているのが、インディゴという染料で、ブルーデニムの独特な色を作り出すことができる唯一の色素分子として知られている。この生産過程では、かなりの量のCO2が排出され、有毒な化学薬品が大量に使用されるため、環境汚染を引き起こし、繊維労働者や地域住民の健康に影響を及ぼすことがある。インディゴの前駆体であるインディカンは、無色で、デニム生地の糸に染み込ませて直接インディゴに変換でき、その際に刺激の強い化学薬品を必要としないため、環境にやさしい魅力的な新しいデニム生地染色法をもたらす。しかし、この方法を採用するためにはインディカンを大量生産する方法が必要になる。
今回、Ditte Welner、Katrine Qvortrupらは、インディゴ染料の原料であるアイ(Polygonum tinctorium)に含まれるインドキシル・グリコシルトランスフェラーゼという酵素を改良した変異体酵素を作製した。この変異体酵素を用いると、インディカンの工業規模での生産を高い経済効率で実行できる。また、著者らは、インディゴをインディカンに変換して、デニム生地を染色するための経済的に実行可能で影響の少ない染色過程を実証した。この過程には、酵素を用いる方法と、光によって駆動される方法がある。光駆動の染色法では、デニム生地を溶液に浸して染色する際にさまざまな光源(エネルギー効率の高いLED、自然光、さらには家庭用の電球など)が役立つことが明らかになった。ブルーデニムの染色工程が環境に及ぼす影響は、酵素を用いる方法では92%、光駆動の染色法では73%低減できる可能性がある。市場分析によれば、ジーンズの年間販売量は40億本とされる。著者らはこれを前提として、上述した2つの方法によって、有毒廃棄物の発生量を減らし、世界の年間CO2排出量を350万トン削減できる可能性があると述べている。
著者らは、環境への影響が低減されれば、欧米のデニム市場において生産拠点を消費地の近くに移転させるインセンティブとなり、サプライチェーンの透明性と持続可能性が高まる可能性があるという考えを示している。
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シュプリンガー・ネイチャーは、国連の持続可能な開発目標と、学術論文誌や書籍に掲載されている関連情報や証拠の認知度を高めることに尽力しています。このプレスリリースに記載されている研究は、SDG 12(つくる責任つかう責任、Ensure sustainable consumption and production patterns)に関係しています。詳細については、こちらを参照してください。(https://press.springernature.com/sdgs/24645444 )
doi:10.1038/s41467-024-45749-3
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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