動物行動学:チンパンジーは独力で生み出せない革新的技能を社会的学習によって習得する
Nature Human Behaviour
2024年3月7日
チンパンジーはお互いを観察することによって新しい技能を習得する(社会的学習として知られる)可能性があることを示した論文が、今週、Nature Human Behaviourに掲載される。この知見は、これまでヒトに特有の特徴だと主張されてきた累積的文化進化の能力をチンパンジーも持っているという可能性を示唆している。
チンパンジーの文化が存在することを示す証拠がいくつか存在しているが、zone of latent solutions仮説(ZLS仮説)として知られる理論は、チンパンジーの個体が互いのノウハウをまねることによってチンパンジーの文化が生じたという考えに疑問を投げ掛けている。ZLS仮説によれば、大型類人猿の文化は、集団内の複数の個体が独立して「文化的」行動の革新を重ねることによって発展するとされる。その証拠として、よく知られたチンパンジーの文化的行動(木の実を割る行動など)が飼育下のチンパンジーによって生み出されたという観察結果が挙げられている。
今回、Edwin van Leeuwenらは、ZLS仮説を検証するために、ザンビアの保護区に生息するチンパンジー66匹を2つのグループに分けて飼育して実験を行った。この実験では、チンパンジーに対して、3段階の課題を遂行して箱を開けて食物の報酬を得るという「問題箱」を与えた。3段階の課題とは、木球を持ってくること、問題箱の引き出しを引っ張り出しておくこと、そして引っ張り出した引き出しに木球を入れることだった。問題箱を与えられてから3カ月後の時点で、チンパンジーは箱を開けるために必要な技能を身に付けられなかった。次にvan Leeuwenらは、各グループから1匹のチンパンジーを選んで、問題箱を開ける訓練を施し、その後の3カ月間に他のチンパンジーが問題箱を開けるために必要な技能を身に付けたかどうかを観察した。両方のグループで、66匹のチンパンジーのうち合計14匹が問題箱を開ける能力を身に付け、それらの14匹全てが他のチンパンジーが問題箱を開けるところを最大1.5メートル離れたところから少なくとも9回目撃していた。
van Leeuwenらは、この課題を遂行するために必要な技能に個人差が生じる可能性があるという見方を示し、今後は、チンパンジーの認知能力と模倣能力の程度を検証するために、さまざまな手法を用いた研究が必要になると示唆している。
doi:10.1038/s41562-024-01836-5
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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