環境科学:地盤沈下が起こっている米国の都市は海水準上昇の影響を受けやすい
Nature
2024年3月7日
米国の沿岸都市(32都市)の大部分が2050年までに洪水のリスクに直面する可能性があることを示した論文が、Natureに掲載される。この知見は、洪水モデルによって裏付けられており、この洪水のリスクによって5万5000~27万3000人と3万1000~17万1000の土地と建物が影響を受ける可能性を示している。今回の研究における推定では地盤沈下が考慮されている。地盤沈下は、これまでの研究で用いられたモデルでは過小に扱われていた。
現時点での予測では、米国の総人口の30%以上が居住する沿岸都市で、海水準の上昇率が全球平均を上回ると予測されている。その結果生じる沿岸都市の浸水は、沿岸部の地盤沈下のために悪化する可能性がある。この地盤沈下の問題は、沿岸域管理政策や長期的な都市計画においてしばしば見過ごされている。
今回、Leonard Ohenhenらは、陸域の標高変化モデルと海水準上昇予測モデルを併用して、米国の32都市(ボストン、ニューオーリンズ、サンフランシスコを含む)の2025年までの洪水リスクを推定した。彼らのモデルによって、効果的な水防構造物を設置していなければ、相対的な海水準上昇によって1334~1813平方キロメートルの陸地が洪水被害を受ける可能性があることが示唆された。最悪のシナリオでは、米国の沿岸域の住民の50人に1人が洪水の脅威にさらされる可能性がある。
太平洋岸のように標高が高く、地盤沈下率が低い沿岸域は、全体的に洪水の脅威が小さく、メキシコ湾岸のニューオーリンズのように標高が低く、地盤沈下率が高い沿岸域は、リスクが高いことが分かった。大西洋岸は、適切な水防体制が備わっていないこともあり、洪水被害を受けると予測される面積が最も広いことも判明した。水防体制が備わった地域では、地盤沈下率が高くなると、水防体制の有効性と構造的完全性に影響が生じる。
Ohenhenらは、現行の水防構造物を考慮に入れても、相対的な海水準の上昇によって影響を受ける陸地面積は2050年までに1006~1389平方キロメートルに達する可能性があることを示している。沿岸域の地盤沈下は年々続いているため、Ohenhenらは、現在のハザード緩和策では不十分であり、現行の沿岸域の水防体制に対しては、洪水防止対策や地盤沈下対策の強化がなされなければならないと述べている。
以上の影響予測は、沿岸域の適応課題の規模の大きさを示しているが、こうした課題は米国の沿岸都市の大部分で正しく評価されていない。今回の論文で明らかにされた相対的な海水準上昇のリスクの増加は、それぞれの地域社会、特に気候変動の不平等に既に過剰に苦しめられている恵まれない人々にとって重大な課題になっている。Ohenhenらは、データセットと浸水ハザードマップが、リスク管理にとって非常に重要な情報となり、先を見越した効果的な適応対策の策定に寄与する可能性があると結論付けている。
doi:10.1038/s41586-024-07038-3
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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