気候変動:世界の平均気温の上昇幅が既に1.5℃を超えていることを示唆する硬骨海綿の骨格
Nature Climate Change
2024年2月6日
全球平均地上気温の上昇幅が既に1.5℃を超えており、2020年代の終わりまでに2℃を超える可能性があることを示した論文が、Nature Climate Changeに掲載される。この推測と予測は、カリブ海の硬骨海綿の骨格に保存された300年間の海洋温度の記録に基づいている。
地球温暖化は、地球の気候に大きな変化をもたらしている。2015年のパリ協定は、産業革命前からの気温上昇を2℃未満に抑え、さらに上昇幅を1.5℃に抑える取り組みを行うことを目指した。海洋温度に関する過去の観測値とデータは少ないが、代理指標記録を使って過去の事象を調べることができる。そうした代理指標の1つが硬骨海綿という長寿命の生物で、その炭酸カルシウム骨格には化学変化が記録されており、自然界における海洋温度のアーカイブとしての役割を果たしている。
今回、Malcolm McCullochらは、海洋温度の自然変動が他の地域よりも小さい東カリブ海で採取した硬骨海綿の試料を用いて、過去300年間の海洋混合層(大気と相互作用する水域)の温度のデータを得た。次に、この温度データを、HadSST4(海面水温のデータセット)に詳述されている観測記録を使用して較正した。この2つのデータセットの比較において、硬骨海綿による温度記録は、1961年以降について高い相関を示した。McCullochらはまた、産業革命前の時代については、この温度記録に基づいて、1700~1790年の期間と1840~1860年の期間は温度が安定していたが、1790~1840年は火山活動に関連した寒冷期で、1860年代半ばからは人間活動に関連した温暖化が始まり、その傾向が1870年代半ばまでに明白になったという見方を示している。これは、観測機器による海面水温の記録(HadSST4のデータセットによる)の開始より約80年も前のことだが、これまでに発表された古気候の再構築と一致している。
McCullochらは、以上の知見が現在の地球温暖化の予測に影響を与えるという考えを示した上で、気温の異常を計算するために使用されている参照期間(1961~1990年)における海洋混合層の温度と地表温度が、今回の研究で定義された産業革命前の時代の温度と比較して、約0.9℃上昇したことを指摘している。これは、現在の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の推定による産業革命前(1850~1900年)の気温との比較では、0.4℃の上昇とされる。McCullochらは、硬骨海綿による温度記録を用いて、気温の上昇幅が既に1.5℃に達している可能性があり、2018~2022年の間に全球平均地上気温の上昇幅が1.7℃に達した可能性があると推定している。
McCullochらは、硬骨海綿による温度記録に基づくと、地球温暖化を1.5℃未満に抑える機会は既に失われており、温暖化を2℃未満に抑えるという目標も2020年代の終わりまでに達成できなくなる可能性があると指摘している。同時掲載のNews & Viewsでは、Wenfeng Dengが、「この研究は、地球規模の気候危機に対処するための迅速で、効果的で、情報に基づいた行動に対する説得力のある呼び掛けになっている」と述べている。
doi:10.1038/s41558-023-01919-7
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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