植物科学:カカオ栽培化の拡大をたどる
Scientific Reports
2024年3月8日
カカオ(Theobroma cacao、「神々の食物」という意味)は、今から5000年以上前にアマゾン川流域から交易路を経由して中南米の他の地域に広がった可能性があることを示す論文が、Scientific Reportsに掲載される。この知見は、古代の容器に残されていた物質の分析に基づくもので、さまざまなカカオの系統がどのように育種されたかを明らかにするとともに、古代の中南米文化においてカカオ製品がこれまで考えられていたよりも広範に使用されていたことを示唆している。
カカオの現生系統は、世界で最も重要な作物の1つであり、その果実の中の種子(カカオ豆)はチョコレート、アルコール飲料、ココアバターなどの製品の原料となる。11の遺伝的グループが存在することが知られており、そこには、広範に用いられているクリオロ系統やナシオナル系統などが含まれる。カカオがもともとアマゾン川の上流域で栽培化された作物であることは十分に解明されているが、その使用が、中南米全土に存在した他の文化にどのように広がったかは明らかになっていない。
今回、Claire Lanaudらは、コロンブス到来以前の時代(今から約5900~400年前)にエクアドル、コロンビア、ペルー、メキシコ、ベリーズ、パナマに存在した19の文化に由来する352点の土器の残留物を分析した。Lanaudらは、古代のカカオのDNAの有無と、カカオの現生系統に存在す3種類のメチルキサンチン(弱刺激薬)成分であるテオブロミン、テオフィリン、カフェインの有無を調べ、古代のカカオの残渣を特定した。また、Lanaudらは、カカオの現生系統の試料(76点)から得た遺伝情報を用いて、上述の土器に付着していた古代のカカオの祖先系統を明らかにした。これにより、古代のカカオの系統がどのように多様化して広がったかが明らかになるかもしれない。
今回の知見は、カカオが今から5000年以上前にアマゾン川流域で栽培化されてから間もなく太平洋沿岸部で広範に栽培されるようになり、古代のカカオの系統に高いレベルの多様性があったことを実証しており、このことは、遺伝的に異なるカカオの集団が一緒に育種されていたことを示している。Lanaudらはまた、ペルーのアマゾン川流域を起源とするカカオの遺伝子型がエクアドルの沿岸部のバルディビアで発見されたことは、これらの地域の文化の相互交流が長期にわたって続いていたことを示唆していると述べている。ペルーのカカオの系統は、コロンビアのカリブ海沿岸地域で発見された遺物からも検出された。Lanaudらは、以上の結果を合わせると、カカオの系統が国を越えて広く拡散し、さまざまな文化でカカオが使用されるようになるにつれて、新しい環境に適応するために交雑育種されたことが示されたと示唆している。
Lanaudらは、カカオの遺伝的来歴と多様性をより深く理解できれば、カカオの現生系統が直面している病気や気候変動などの脅威に対抗するために役立つかもしれないと結論付けている。
doi:10.1038/s41598-024-53010-6
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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